第5話 決闘?めんどくさいなぁ

 決闘。めんどくさい。決闘。だるい。決闘。やりたくない。


「ですがもう決まったことですよ勇者様」


「お前が勝手に煽っただけじゃん」


「さあさあ早く。決闘場に向かいましょう」


 僕はハーヴィーに手を引っ張られる。そして辿り着いたのはスタジアム。学園の中にこんなのあるのって異能学園すごい。


「ふ。待っていたぞ。君が勇者にふさわしくないことを今から証明してみせようじゃないか」


「そうっすね」


 なんでみんな僕にこうしてなにもかんも押しつけるんだろう。だるい。そして決闘のゴングが鳴る。敵の少年くんが剣を召喚して斬りかかってくる。だるい。めんどくさい。僕はその剣戟をそのまま受ける。肩から肺にかけて深く切り裂かれてしまった。


「え?ちょっとまて?!シールドは?!回避も!なぜしない!」


「…めんどくさい。もういいかな」


 敵の少年はビビっているようで剣を抜いた。僕はブシャーっと血を流している。だけど徐々に勝手に回復していっているのがわかる。


「これは決闘なんだぞ!君はやる気がないのか!」


「あるわけないでしょ。君も学園もどうだっていいんだ。知らん間に気がついたらここにいただけ。放っておいて欲しい」


 そういうと少年は激昂したのか居合抜きの姿勢で僕に突っ込んできて腹を切り裂いた。お腹の中身がどぼどぼと地面に墜ちていく。いたいなさすがに。僕は痛み止めと精神安定剤を飲む。そしてため息をはいた。なんでこんなことになっているんだろう。あの日ピンクの髪の変な女が俺にキスしてきたせいだ。


「気持ち悪いなぁ。性病とか移されてたらどうしよう。気持ち悪いなぁ」


 気分が沈む。唇を袖で何度も拭う。


「君はなんなんだ!これほどの大怪我を負っているのに何で顔色一つ変えない?!」


「ああ…そうだねぇ。大怪我しちゃった。じゃあギブアップでいいよね。僕弱いもの」


「そんなの認めるわけないだろう!どう考えても実力を隠している!なら僕も本気を出す!」


 そう言うと少年の姿が陽炎のように揺れて何人も分身する。その一体一体が強大な力を秘めているんだろうなてことがわかった。


「しんでも文句は言わせない!」


「そう。死にたい僕にはちょうどいいかな。いや死にたくない。どっちもいやだ。気分がわるい。凹む。辛いぃ」


 そして分身たちが一斉に僕に斬りかかってきた。このままだと死んじゃうかなって思った。でも今日死ぬのはいやだな。まだピンク髪の女にキスされたことへの抗議と報復が済んでいない。性病チェックもしないといけない。今日は死ねないな。そう決めた。だから僕は迫ってきた分身の一体の頭を掴んで握りつぶした。


「え?なっ?!」


『きゃあああああああああああああああああ!』


 客席からは悲鳴が上がる。ちょっとグロかったかな。でもいいや。そして僕はさらに近づいてくるやつの手を掴んで他の分身にそのままぶつける。分身はミンチの様に真っ赤な肉塊になった。


「ぐろい。これはよくないな」


 僕は足元に落ちていた剣を拾って、残りの分身の一体に投げる。そいつの胸に刺さって分身は息果てた。そして気がついたときには敵は一人だけになっていた。


「な、なんだよ。なんでそんな力を持ってるのに!?正しいことをしなかったんだ!」


「そんな余裕僕にはないんだよ。薬漬けでぼーっとした頭。悪夢に魘される日々。感情の波ですぐに気持ち悪くなる胸。どれもこれも他人に優しくできない理由にしかならないじゃないか」


 今やりたいことなんてピンクの髪の女の子への報復だけだ。それ以外の目的もない。その目的だって性病チェックで白だったら特にやる気も起きないだろう。僕には何もするやる気がない。だけど。


「多分ね。僕この決闘に負けると偉い人たちに殺されちゃうんじゃないかなって思うの。まだ死にたくないんだ。これでもいつかは病気が治るって期待はしてるし。だからわるいけど。負けてくれない?」


 僕は右手から黒い影を出す。それは大きな手の形になった。そしてそれは素早く伸びていき敵の少年を掴んだ。


「ぐああああ!くそ!この程度の拘束!?なんでだ!?魔力が!?魔力が使えないい」


「まいったといいってくれ。そうすれば」


ふぁぉjlふぁjgじゃおふghをh0くぁえhjf0えあくぇrぼvf:;s


『だめよ。勇者は威厳を見せつけないと。歯向かうものは鏖!』


 ピンクの髪の女が視界の端に見える。そいつはふざけたことにチアガールの服装をしてポンポンを振っていた。


「まいった!まいった!ごめんなさい!許してぇ!」


 少年は必死に僕に命乞いをしている。だけどこいつみたいな人間に過去に心当たりがあった。小学生の時だ。臨海学校で高い波にさらわれそうになっていた子の手を引っ張って助けた。だけどその子はあろうことか俺に手を引っ張られて溺れさせられそうになったと嘘をついた。二人きりの時に問い詰めた。だってお前みたいな「下」の奴に助けられたとかダサいじゃん!お前も俺のこととかちゃんと考えて助けろよ!そう罵倒された。あのときの感情を無理やり引っ張ってこられた。僕はあのときどうしたかったんだろう。よく覚えてるよ。


「その口塞ごうか」


 僕はもう一つの影の手を生み出して少年の頭を覆う。そして影の両手をぎゅっと握った。決闘はその瞬間終わった。気がついたら僕の体の傷は服ごと治っていた。生きていればきっとヒーローになれた少年はそうして死んだ。









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誰も君には優しくしないけど、君は世界を救ってね。 園業公起 @muteki_succubus

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