第4話 勇者の守備範囲
異能実技。どうやら体育に該当する授業のようだ。僕たちは校庭に出て異能の訓練を行うことになった。のだが。
「よーし。二人組を作れぇー」
メスガキに種付けしてそうな体育教師が禁断の呪いを発動させた。転校してきたばかりの僕に組んでくれる人なんていない…。
「組んであげましょうか?」
僕の傍に控えていたハーヴィーがそう囁く。なおこの女、なぜかブルマ型の古き良き時代の体操服を着ている。こいつ自由だなぁ。
「お前生徒ちゃうやん。組む用件満たしてなくない?」
「そうですか。わかりましたよ!わたくしは他の人と組みますからね!」
そう言ってご機嫌を損ねたハーヴィーは近くの女子生徒に声をかけてそいつと組むことになったようだ。何そのコミュ力。意味わかんない。
「勇者様はあまちまったのかよ。ひひひ」
「いやいや。あれだろ。勇者には愚民の力はいらねぇっていうことだろ。くくく」
見るからに不良というか悪そうな生徒が僕を囃し立てている。僕は心に微妙にダメージを負う。エチゾラム0.5mgを取り出してごくりと飲み込んだ。
「よーしじゃあ。お前ら二人組になったな。では。
え?何言ってるの?こわ。そして誰一人として僕以外に動揺している者はいなかった。彼らは各々の異能を発動させて戦い始める。
「ぎゃあああ!」
僕は校庭から校舎の方に必死で逃げる。余波で爆風が飛んできたり、ビームが飛んできたりとどう考えてもやばい。そんな危ない戦場のようなところをかいくぐって僕はなんとか校舎まで逃げ切ることに成功した。
「これが現代最強の魔法少女の力…?!」
校庭の中心にきゃるんきゃるんでぴっちぴっちなエロセクシーでありながらフェミニンな可愛らしいハイレグミニスカ服のハーヴィーが宙に浮いていた。
「一対一と言わず皆さんでかかってきなさい」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
多くの生徒たちがハーヴィーに襲い掛かるがそれをハーヴィーは軽くいなしてはぶちのめしていく。これ何の授業?ハーヴィーの無双タイム?もういいや。僕は校舎の中に入って保健室に向かう。
「すみません。調子悪いので休みます」
僕はベットを借りて横になる。そして飲み過ぎた安定剤の誘導する眠気に身を委ねて眠りについた。
ベルがなった。どうやらお昼休みのようだ。
「起きましたか」
ハーヴィーが僕のベットの傍の椅子に腰かけて文庫本を読んでいた。彼女はそれをポケットに仕舞って立ち上がる。
「では昼食にいたしましょう。ここの食堂の料理は高級レストランにも引けを取らないそうですよ」
「あ、そう」
そして僕はハーヴィーに詰襟の制服を渡されて、それに着替えてから食堂に向かう。食堂は多くの生徒で賑わっていた。いろんな人種がいる。通っているのは日本人だけではないようだ。僕は牛肉うどんとサラダにした。ハーヴィーはカツ丼とサラダだった。
「わたくし、日本人の麺を啜る音大嫌いなんですよ」
「いきなりジャブ投げてるのな。まあいいけど」
僕は音もなくうどんを啜る。ハーヴィーはそれを見てうんうんとご機嫌そうだ。なんでこんな女のご機嫌を取っているのかわからなくなってくる。そんなときだった。がしゃーんと音がした。
「おらおらおら!」
「ひぃいいい!」
「おらおららららららあ!!!」
「ひいぃぃいいいいはほあおあおあお!」
なんか不良といじめられっ子がトラブル起こしてるようだ。介入してもいいことないから放置する。スマホで写真だけとってあとで先生にチクろう。そんな時、颯爽とイケメンが不良の手を掴んで虐めを止めた。それで問題は解決したようだった。
「このカツ丼。出汁にかなり凝ってますよ。美味しい」
ハーヴィーはクッソどうでもいいコメントを残した。
「おまえ、今の騒動みてなかったの?」
「弱肉強食なんてあたりまえでしょう?いちいちかまってられません。淘汰されるものは淘汰されればいいのです」
こわ!こいつの思想が怖い!こういうやつがきっと世の中のいじめを加速させるのだろう。そして食べ終わったあと僕たちは教室に戻った。
教室に戻るとまた例によってひそひそと僕を見て噂話をする声が聞こえた。僕は自分の席に座って突っ伏して聞こえないふりをする。そんなときだ。
「寝てるフリなんてやめて顔を上げるんだ!」
イケボが僕の耳に届いた。僕は顔を上げる。
「君はさっきいじめを見てみぬふりをしたね。勇者にあるまじき態度だ!」
そんなこと言われても。むしろ勇者の仕事時代が謎なんだよ。ハーヴィーからは怪獣退治しろくらいしか言われてない。他のことなんて知らない。
「だいたい君は本当に勇者なのか?覇気もなければやる気もない、ましてや勇気もなさそうだ」
「いい加減にしていただけませんか?」
ハーヴィーが口を挟んできた。ああ、ややこしいことになるぅ。
「この方は国連の安全保障理事会の全会一致で承認された世界でただ一人の勇者様です。それ以上の侮辱は許しませんよ」
「だとしても。それをお付きの者に言わせるなんて情けないよ。俺には勇者の資格があるように思えないね!」
だったらどうすればええねん。
「わかりました。では決闘しましょう」
ほんとなにいいだしてんのはーヴぃーちゃあああん!
「この人がこれから実力を証明します。それでわかるでしょう。負けたらあなたは勇者様の視界から消えていただきます」
「へぇ。いいねぇ。じゃあ僕が勝ったときにはどうするんだい?」
「面子を潰された常任理事国があなたの命をねらうでしょう」
決闘が割に合ってない!?僕はともかく相手のイケメンが勝っても負けてもロクな目に合わない?!
「え?勝ったら何かボーナスとかは」
「ありませんけど?なんでわたくしたちがなんか払う必要があるんですか?勇者なんですけど?」
決闘とは一体…?
「んぐぅ…わかった!だけど俺も男だ!二言はない!君が勇者にふさわしくないことを証明してやる!」
そう言ってイケメン君は背中を向けて自席に戻る。
「決闘は放課後、学園のスタジアムにて行うように手配します。頑張ってください勇者様!」
「僕なにもしたくないようぅ」
なんか勝手に決まった決闘に僕は頭がくらくらし始めたのだ。
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