第3話 転校
ハーヴィーとかいう女は僕に書類を渡してきた。
「東京異能学園?」
「はい。様々な異能を持った学生たちが通う世界屈指の教育機関です。勇者様にはそこに通っていただくことになりました」
知らんうちに遣えるようになったあの黒い炎のせいだな。
「別にいまのままでよくない?」
「こっちとしては管理の問題があるので転校していただきたいです。それにあれですよ。異能者は美人が多いので、いい感じの学園生活送れますよ!」
「男のメンヘラに彼女が作れると?はは。ばかばかしい」
でもどちらにしろほぼ強制っぽい。
「寮生活となりますが、わたくしが一緒に住んで生活の面倒は見させていただきます」
「異性と一緒に住むとか嫌なんだけど。言っちゃあれだけど君ハニトラでしょ?いやだよ。僕は強迫性障害も煩ってるんだ」
「存じております。安心してください。わたくしは異性経験がない処女です。性病の危険性も精神的穢れ感も持たずに済みますよ」
「そんな奴をハニトラに送ってくるとはイカれてるなぁ」
だからと言って別にこのハーヴィーが僕には綺麗な存在とは捉えられない。強迫性障害の僕には他人なんて須らくばい菌の塊である。エレベーターのボタンも気持ち悪いし、電車のつり革とかキモいよね。
「そういえば元魔法少女って言ってたけど、何なのその経歴。外国にも魔法少女いるの?」
「外国に魔法少女はいません。わたくしは日本で育ったので、日本原産の魔法少女ですよ」
「あっそ」
てか日本にも魔法少女がいたこと自体に驚きを隠せない。怪獣が地球にきてからこっち異能者の存在は世に広く知られるようになったけどね。
「明日には転校となります。朝には起こすので今は何も考えずぐっすりとお眠りください」
ハーヴィーは笑みを浮かべてそう言った。胡散臭い女だ。美人な分だけ胡散臭さが本当に匂う。でも眠かったのでとりあえず言う通りに眠ることにした。
次の日。僕はハーヴィーに起こされた。彼女はきちんと執事服を着ていた。綺麗に畳まれた制服と下着が用意されていた。僕はシャワーを浴びてからそれに着替える。そして彼女についてホテルの部屋を出る。ホテルの玄関ホールに出るとそこには一台のサイドカー付きのバイクが停まっていた。
「どうぞ乗ってください」
「普通車じゃねぇの?」
「わたくしはバイクが好きなので」
個人の趣味かよ。でも逆らわずに僕はサイドカーに乗る。そしてバイクは走り出す。結論。サイドカー超怖い!
「ふぅ。やはり風を直接受けて走るのは楽しいですよね!」
「バカ言うな。滅茶苦茶こえぇよ!何だよバイクって!こんなの人間ののるもんじゃねょ!」
隣にトラックとか走ってたときとかホントシャレにならんほど怖かった。車高も低いからタイヤに飲み込まれたしぬんじゃね?みたいな妄想で半分パニックだった。ずっとカバンだけ抱えて小さくなっていた。
「そうですか。では次からは二人乗りにしましょう」
「絶対にやだ!」
想像するだけで恐ろしい。バイクはこりごりだ。僕はバイクから出来るだけ離れる。ハーヴィーは肩を竦めて駐車場にバイクを停めに行った。そして僕は東京異能学園の門の前に取り残されたのである。周りはみんなネイビーブルーな詰襟を着ていた。ダブるボタンでおしゃれ。女子はそこにタイトスカートかプリーツスカートかスラックスか好きなボトムスを合わせている。なんとも変わった学校だ。僕もその詰襟をつけているわけだけど、まさかこんな形で詰襟を着ることが出来るとは思わなかった。中学はくそダサいブレザーで、高校もくそダサいブレザーだった。高校の志望校は詰襟だったのだが、いろいろあって受験に失敗した。思い出したくもないトラウマの一つだ。僕にとって詰襟は憧れの一つである。通ってもいいかなって一瞬だけ思ってしまった。
「お待たせしました。行きましょう」
ハーヴィーが戻ってきた。彼女に連れられて僕は学園の中に入って行く。周りが何か僕を見ながらひそひそと噂話している。と思う。気がするのだが、確証は持てない。嫌な気持ちになってきた。人が多くなるといつもこうなる。僕はエチゾラムの0.5㎎の錠剤を飲み込んだ。そして職員室に連れていかれて色々説明を聞いて担任に引き渡され…ることはなくハーヴィーと一緒に教室に向かった。すでに始業のチャイムらしきものはなっていた。今はホームルームの時間だろう。
「えー転校生を紹介する。入ってこい」
担任と思われる女性教師の声が教室の中から聞こえてきた。
「入ってこい?失礼では?」
ハーヴィーがなんか言い返していた。話がややこしくなる!
「こちらにおわすのは勇者様ですよ。サバサバ系気取りながらマチアプですぐにヤリ捨てされるような経験人数ばかり多いアラサー女教師がため口きいていい相手じゃないんですよ!」
相手のイラっとした感情が伝わってくる。
「どうぞお入りになってください勇者様」
そしてそれを聞いてハーヴィーが教室のドアを開ける。僕はそれに恐る恐るついていく。
「わたくしはセバスティアーナ・ハーヴィー。勇者様のスティアートです。そしてこちらは勇者様です」
お前が自己紹介するのかよ!まあやりたくなかったからいいけど。
「勇者様はこの教室の誰よりも、いいえ、地球上の誰よりも命の価値が高いです。わかっていると思いますがそこらへんは重々承知のうえで接するように」
何かましてんのこの女?!教室の人たちの視線が一気に厳しくなる。僕はエチゾラム0.5mgを取り出してごくりと飲み干す。
「勇者様の席はあそこです」
僕の席は教室の一番後ろの一番右端の窓側の席だった。一番リア充感ある席だろう。
「まあ悪くはないかもしれませんね」
ハーヴィーはなんか上から目線でそう評した。こいつさっきから何様?とりあえず僕はそのせきにすわった。そしてハーヴィーは僕の後ろになぜか立った。
「何で立ってんの?」
「座ってもよろしいのですか?」
「いやそうじゃない。お前は学生じゃないだろ」
「ですが執事なので主人の傍にいつでも控える義務があります」
「ええぇ」
僕は困惑した。いやこれ監視だよね?しかも真後ろに立たれるとすごくウザい。そしてベルがなり授業の時間となった。一限目は【異能実技】と壁に貼ってある時間割に書いてあった。さっそくの洗礼に気分が沈むのを感じるのだった。
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