第5話 最後の追跡
深夜、警察署内は緊張感に包まれていた。
押収した廃棄物や荷物の分析により、タンクローリーが運んでいたものが軍事用の化学物質とその処理残骸であることが明らかになった。さらに、その背後に東成ケミカルが関与している証拠も次々と浮上。だが、最も重要な黒幕である小野寺健一の行方は依然として掴めていない。
「次に動くのはあのタンクローリーだ。」
中野はそう確信していた。廃工場の取引が潰された今、小野寺が新たな拠点で動きを再開するのは時間の問題だった。
そしてついに、その夜タンクローリーが再び住宅街に現れたという通報が入る。中野は吉川と共に現場へ急行した。
「今度は絶対に逃がさない。」
暗い住宅街を進むタンクローリーを発見すると、中野はパトカーで追跡を開始した。だが、タンクローリーはこれまで以上に激しく抵抗し、細い路地や暗闇の中へ逃げ込む。
「やっぱり奴ら、計画的だな…!」
吉川が叫ぶ。だが中野は冷静に進路を予測し、タンクローリーを郊外の工場地帯へ追い込むことに成功する。
工場地帯でタンクローリーはついに動きを止めた。その後ろから姿を現したのは、黒幕である小野寺だった。
「よくここまで追い詰めたな、警察さん。」
小野寺は余裕の表情を浮かべながらも、手にはリモコンのような装置を持っている。それを見た中野は直感的に危険を感じた。
「そのリモコンは何だ?」
「このタンクローリーの中身を見ればわかるさ。」
小野寺がボタンを押そうとする瞬間、中野は躊躇なく彼の手に向かって発砲した。リモコンは地面に落ち、小野寺は倒れる。
「中身ってどういうことだ?」
吉川がタンクローリーに駆け寄り、内部を確認すると、そこには大量の化学物質と不安定な爆薬が積み込まれていた。このまま放置していたら、大規模な爆発を引き起こす危険があったのだ。
「こいつら、こんなものを持ち出して何をするつもりだったんだ…!」
吉川が怒りを露わにする中、中野は冷静に現場を封鎖し、爆発物処理班を呼び出した。
小野寺はその場で拘束され、タンクローリーの危険物も無事に処理された。しかし、取り調べの中で小野寺が語った内容は、さらに衝撃的なものだった。
「俺たちはただの歯車だ。東成ケミカルはもっと大きな組織に操られている…お前らが見つけたのは、ただの入り口に過ぎない。」
その言葉は、事件が終わりではなく、さらに深い闇への序章であることを示していた。
事件が解決したかに見えた翌朝、中野は署内で報告書を書き終えると、静かに吉川に言った。
「終わらないな、この仕事は。」
「でも一歩ずつ進むしかないですね。」
中野はタンクローリーが残した焦げた匂いを思い出しながら、静かに椅子に座り直した。この事件がどこまで広がるのかはまだ分からない。それでも、正義のために進むことを決意していた。
そして物語は、新たな闇を予感させながら幕を閉じる。
轟音のタンクローリー 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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