第4話 影の取引
丸越工業への潜入は失敗に終わったが、中野の直感は確信に近づいていた。この事件には、タンクローリーを使って何か重大な秘密が隠されている。翌日、中野はさらに調査を進めるため、丸越工業と取引のある企業のリストを洗い出し、その中に国内の大手化学企業「東成ケミカル」の名前を見つけた。
「東成ケミカル…化学兵器の材料を扱っているって噂のある会社だな。」
吉川もこの名前には聞き覚えがあった。特に、海外の紛争地帯で違法に取引される物資の供給元として、黒い噂が絶えない企業だった。
中野は東成ケミカルの物流記録を入手し、丸越工業への不審な出荷が増加していることを突き止めた。しかもその内容物は、軍事用にも転用可能な化学物質。タンクローリーが運んでいたのは、これらの物質の処理後の廃棄物である可能性が高い。
「つまり…タンクローリーは違法取引の後始末をしていたってことですか?」
吉川が驚きの声を上げる。中野は頷きながら続けた。
「廃棄物を密かに処理していたんだろうな。住宅街であえて目立つ音を立てていたのも、あそこが監視の少ない安全地帯だったからかもしれない。」
中野はさらに調べを進め、「東成ケミカル」が海外の犯罪組織と取引しているという裏付けを掴みつつあった。そして、取引の現場には必ず丸越工業とタンクローリーが絡んでいる。だが、証拠はまだ足りない。
その夜、中野と吉川は再び住宅街で張り込みを行った。タンクローリーが再び現れる可能性が高い場所を予測し、周囲を警戒する。深夜2時、予想通りタンクローリーが姿を現した。
「来たぞ…!」
中野たちはすぐに追跡を開始した。タンクローリーはまるで二人の動きを察知しているかのように、狭い路地や暗い裏道を巧みに逃げ回る。
「逃がすな、吉川!」
パトカーを全速力で走らせ、ついに郊外の廃工場に追い込むことに成功する。そこには、タンクローリー以外にも複数のトラックが停車しており、大勢の作業員が荷物を積み替えている光景が広がっていた。
「やっぱりここが取引現場だったか…!」
中野たちは工場内に突入し、不法な取引の現場を押さえようとする。しかし、作業員たちは中野たちの姿を見るや否や、すぐに逃げ出した。
「逃がすか!」
中野は必死に追いかけるが、工場の奥でリーダー格と思われる男に遭遇する。彼はかつて死亡したと記録されていた「小野寺健一」という男だった。
「小野寺…お前は死んだはずだ。」
中野の問いに、小野寺は冷笑を浮かべながら答える。
「死んだことにすれば都合が良かったんだよ。俺は今、この国の闇を動かしてるんだ。」
彼は、東成ケミカルや丸越工業を通じて、化学兵器の材料を闇取引していた中心人物だった。そしてタンクローリーは、その証拠を隠蔽するための手段だったのだ。
だが、その瞬間、小野寺は突然身を翻し、闇に紛れて逃走してしまう。中野たちは証拠として廃棄物や荷物を押収することには成功したが、取引の黒幕である小野寺を捕らえることはできなかった。
工場を見渡しながら中野は呟いた。
「ここまで大掛かりな犯罪、背後にはもっと大きな力があるかもしれない…」
タンクローリーの追跡は、一旦大きな進展を見せたが、次なる危機の兆しをも感じさせるものだった。真相に近づくほど、闇は深く、危険なものになっていく――。
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