第3話 消えたタンクローリー

翌朝、中野と吉川は、昨夜最後に目撃した「丸越工業」の周辺を詳しく調査することにした。この工場も化学薬品を取り扱っており、以前から少量だが不自然な仕入れが確認されていた。さらに、タンクローリーが頻繁に出入りしているという目撃情報もある。


工場の敷地内を見渡した中野は、隅に積み上げられた大きなドラム缶に目を留めた。錆びついてはいるが、その一部には先日分析された有機溶剤の成分が付着している痕跡が見つかった。


「これは…ただの工場活動じゃないな。」

吉川も無言で頷く。


その夜、再びパトロールに出た中野たちは、意外な事実に直面する。タンクローリーが、突然姿を消したのだ。これまで毎晩のように現れていたにもかかわらず、通報が途絶えた。


「連中、警察が動き始めたのを察知したんじゃないか?」

吉川が言う。中野もその可能性を否定できなかった。だが、ここで手を止めるわけにはいかない。中野は、次の一手として「丸越工業」への潜入捜査を計画することにした。


深夜、作業着姿に変装した中野と吉川は、工場の外から様子をうかがっていた。敷地内には薄暗い照明が灯り、奥で何かを運び込むフォークリフトの影が見える。


「…行くぞ。」

二人は慎重にフェンスを越え、工場内へと足を踏み入れた。


中に入ると、ドラム缶が大量に積み上げられた倉庫が目に入った。そこには見覚えのあるロゴがいくつも貼られている。そのロゴは、国内の大手化学会社のものだった。


「こんな小さな工場が、あんな大手と取引してるのか…?」

吉川が呟く。中野も違和感を覚えながら、さらに奥へ進んだ。その先にあったのは、巨大なタンクのような設備。そしてその近くには、見覚えのあるタンクローリーが停まっていた。


「やっぱりここにいたか…!」

だが、二人が近づいた瞬間、物陰から現れた数人の作業員に取り囲まれた。


「おい、何者だ!」

作業員たちは明らかに警戒心をあらわにしている。中野は冷静に警察手帳を取り出し、声を張った。


「警察だ。怪しい動きがあると聞いて調査に来た。」

だがその言葉に、作業員の一人がにやりと笑った。


「ここで見たことは忘れた方がいいぜ。」


そう言った瞬間、背後で大きな爆音が響き渡り、倉庫内が激しく揺れた。驚いた中野が振り返ると、別のタンクが意図的に破壊され、濃い煙が立ち込め始めていた。


「くそ、煙に巻かれるつもりか!」

中野は急いで吉川と共にその場を離れたが、作業員たちは煙の中に紛れ込むように姿を消した。


翌朝、中野たちは工場の前に戻ったが、すでに何もかもが片付けられていた。タンクローリーも消え去り、証拠となるものは何一つ残されていない。


「…これは大きな組織が絡んでるな。」

中野の頭の中に、一つの疑念が浮かんでいた。この事件の背後には、単なる不法投棄ではない、もっと巨大な陰謀が隠されているのではないか。


「このタンクローリーは、何かを隠すために動いている。それも、絶対に表沙汰にできないようなことをな。」


その言葉が、これから起きるさらなる危機の予感を暗示していた――。

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