第2話 不可解な痕跡
朝になり、科学捜査班が現場から採取した液体の分析結果が上がった。
「結果が出ました。」
吉川が手渡した報告書に目を通した中野は、眉をしかめた。
「…高濃度の有機溶剤か。工業用のもので、普通の車両や家庭で使うものじゃない。なんでこんなものが住宅街に?」
中野は頭を抱えた。これまでの情報と合わせても、タンクローリーの目的が一向に掴めない。
さらに周辺の聞き込みで、タンクローリーが現れる時間帯がある程度決まっていることが判明した。毎晩、深夜1時から3時の間に現れる。その時間帯を中心にパトロールを強化することが決まったが、住民たちからはさらに奇妙な証言が寄せられる。
「音が鳴り始めると、窓を開けられないほど焦げ臭くなるんです。」
「通り過ぎた後、車のボディに油っぽいものがついてることがあるんですよ。」
中野は新たな手がかりを求めて、タンクローリーが頻繁に通っていたルートを細かく調査することにした。そこには、ある小さな工場があった。
その工場は、化学製品を扱う中小企業で、近隣の住民もほとんど気にしていない様子だった。中野は吉川を連れて、工場を訪ねた。
「警察の者です。ちょっとお話を伺いたいのですが。」
工場長と名乗る初老の男が、少し怯えた表情で出迎えた。
「先日、近くを通っていたタンクローリーについてお聞きしたいんですが、この辺りに関係は?」
中野の質問に、工場長は一瞬言葉を詰まらせた。
「い、いえ、うちとは関係ありませんよ。ただ、夜間に大きな音が聞こえることはありますが…」
その言葉に違和感を覚えた中野は、視線を工場内へ向けた。そこには大量のドラム缶が積み上げられている。
「これは何ですか?」
「ああ、それは、ただの溶剤です。普通の作業用で…」
工場長の口調はどこかぎこちない。中野はさらに質問を重ねようとしたが、工場長は明らかに話をはぐらかそうとしているようだった。
「吉川、このドラム缶の内容物を調べられないか?」
「ええ、捜査令状があれば可能ですが、今は少し難しいですね。」
仕方なく工場を後にした中野だが、確かな手がかりを掴んだ気がした。
その夜、再び住宅街でパトロールをしていた中野は、タンクローリーの姿を捉えた。
「見つけたぞ…!」
だが、今度のタンクローリーは前回よりも慎重な動きを見せる。中野たちが接近すると、鋭く方向転換し、裏道へ逃げ込んだ。
「吉川、追え!」
パトカーは猛スピードで追跡を開始したが、狭い路地でタンクローリーを見失った。そこには、焦げ臭い匂いだけが漂っている。
「また逃げられたか…」
中野がため息をついたその時、住宅街の外れにあった別の工場の名前が目に入った。「丸越工業」というプレートが、月明かりの下で不気味に輝いていた。
「この工場にも何かあるはずだ。」
中野はその工場が、この奇妙な事件のカギを握っていると直感した。そしてこの時点で、タンクローリーの正体がただの迷惑車両ではないことを確信した。
しかし、その先に待ち受ける真相は、彼の想像をはるかに超えるものだった――。
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