第1話 深夜の異物
「まったく、またかよ…」
中野誠は住宅街に響き渡るエンジン音に苛立ちながら、パトカーをその音の方向へ走らせていた。ここ数日、夜中になると現れるというタンクローリーの通報が相次いでいた。市民からの苦情だけでなく、不可解な現象がその不安を煽っていた。
「轟音を立てながら走るだけなら迷惑車両で片付けられるが、どうにもそれだけじゃなさそうだな…」
助手席に座る新人刑事の吉川が呟く。数件の目撃情報には共通点があった。深夜の轟音の後、奇妙な焦げた匂いと不明な液体が残されているというのだ。
住宅街に差し掛かると、まさにそのタンクローリーが現れた。巨体に錆びついた外装、エンジン音は耳をつんざくような轟音を響かせている。中野はヘッドライトを点滅させながら接近した。
「警察だ!止まれ!」
しかし、タンクローリーは止まるどころか、加速を始めた。住宅街の細い道を悠然と進むその様子は、明らかにこの地域に詳しい運転手の仕業だ。
「逃げる気か…!吉川、行くぞ!」
パトカーはサイレンを鳴らして追跡を開始した。だが、タンクローリーはその巨体に似合わない素早さでカーブを曲がり、暗闇に溶け込むように姿を消した。
「どこへ行ったんだ…?」
パトカーを降り、周囲を調べる中野。そこには焦げた痕跡と、ほんのりと鼻を突く焦げ臭い匂いが残されていた。吉川がライトを照らすと、アスファルトに染み込んだ液体が鈍く光っている。
「これ、普通の車両が撒くものじゃないですね…」
吉川の言葉に頷きながら、中野は無線で科学捜査班の応援を要請した。
「これでただの迷惑運転とは言えなくなったな…。吉川、この液体が何か調べるぞ。何かが裏にあるのは間違いない。」
その夜、タンクローリーは再び住宅街に現れることはなかった。
中野は焦げた匂いの残る現場に立ち尽くしながら、胸の奥に湧き上がる奇妙な不安を振り払うことができなかった。
これが、長い追跡劇の幕開けだった――。
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