第5話 そして、二人だけのクリスマスに。
久々に小学校からの下校をした55歳の男女は、同行する男性がかつて住んでいた場所まで戻ってきた。というより、あの三差路で別れることなく一緒にその地までたどり着いたというのが正確なところであろう。
かつて少年らはメガネをかけていなかったが、今は二人とも眼鏡をかけている。
かつての少女は、今眼鏡を扱う店に勤めているというきらいもあるが、当時も今も形こそ違え眼鏡をかけている。単に商売上必要でかけているのではなく、生活上必要であるからこそ昔も今もかけているのである。
彼女はあの三差路でこそ泣いていたが、彼とともにここまで歩いてきたこともあるからか既に乾いている。改めてハンカチで拭くほどのこともない。
一方の彼であるが、こちらもそこは同じ。年齢を重ねて涙もろくなっているようではあるが、さすがにもう先程の涙は顔の上のどこにもない。
「じゃあ、君ら、これからどうする? どこかに行く? それとも由佳さん宅まで帰るか? いずれにせよ、そこまではカメラを回させて欲しい」
映画監督の要請を、彼らは了承した。その回答は、夫婦を代表して夫の方が意思表示することで成立した。
「ちょっと、うちによって荷物をまとめなおさせて。それから、由佳の家まで行くことにするわ。あとはもう、明日の朝まで一緒に過ごすよ」
彼の弁にしたがい、今や彼の妻となった女性の運転するクルマでまずは街中近くの彼の家で荷物のまとめなおしを行った。
それから約1時間少々。
彼女の運転するクルマには、運転席と助手席に夫婦が並んで話している姿を撮影する映画監督が後部座席から映画のための撮影を継続した。夫婦が自宅に到着し、くつろぐ姿までを撮影して、中崎氏は彼ら夫婦がこの日を過ごす家を退去した。
「じゃあ、お二人とも、お幸せに」
中崎氏が去った後、55歳の新婚夫婦は、生まれて初めて共に迎えるクリスマスの夜を、二人だけで過ごした。
(おわり)
47年ぶりの三差路から 与方藤士朗 @tohshiroy
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