第4話 そして、三差路。

 二人は、あの三差路まで来た。


「ゆ、ゆかちゃん、じゃあ、ここで・・・」


 少しばかり、ときが止まる。

 少女のときのように、ここでバイバイとはいかない。


「ば、バカ!」


 その声を、夫となった彼はその声の主をいささか強引に引寄せた。そして、いささか強引なと言ってもいいほどの力を持って、彼女の肉体を引寄せた。


「そんなことするわけ、ないやろ!」


 映画監督氏は、黙ってカメラを回す。夫は続ける。


「ぼくは、由佳を決して離さん! これは、誰からの声でもない。鉄研のどの先輩からでも、昔の野球のおじさんの誰かからの声でも、どこかの偉人さんからの声でもない。ぼく自身の由佳ちゃんへの声や!」


 しばらく、ときが止まる。いい年の男女の恋愛の雰囲気にしてはどうかなという気もしなくはないが、二人にとっては、そういう時期も含めた長年の積もったも野のすべてが今ここで噴出しているのは間違いない。


「キヨくんって、そんな人だったっけ・・・」

 涙ながらに抱きつく彼女を、夫は黙って受止める。

「これが、今のぼくだ。代打ワシでも代走猫でもない!」

 この期に及んで、藤村冨美男や周東右京を出すなよと思いながらも、彼はそんなことを言う。彼なりの言葉なのであろう。

 彼女のほうは、彼の言う人物が誰なのかを既に理解している。それは彼なりのこけおどしのようなもの。照れ隠しと言っても、いいかもしれない。


 しばしのときを待ち、映画監督氏が声をかけた。

「とにかく、クルマに戻ろう」

 二人は腕を組み、かつて少年が下校していた方の道へと歩き始めた。

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