【一話】
第2話
一話 シナリオ
結婚2年目の由宇は産休が明けたばかりで、毎日家事に育児に仕事にと追われている。そんな由宇の今の悩みは、夫から夜誘われることだった。楓を出産後、まったくといって性欲がなくなってしまった由宇にとって、その行為自体が苦痛で仕方なかった。
それに加え、毎日目が回るくらい忙しい。朝5時に起きて、朝食の支度。保育園の準備に、洗濯。ゴミ捨だしにお弁当作り。そして保育園に子どもを送っていき、自分の職場へ。寝る頃にはクタクタになっていて、夫の夜の相手をする余裕はなく、誘われるたびに断っていた。
それを不満に思う倫也は「俺のことが好きじゃないのか」と由宇を罵しる。求めるばかりで、全くといって協力しない倫也に、段々愛情がなくなっていっているのを、由宇は日に日に感じていた。
そんな由宇の唯一の楽しみは、楓の担任の先生、梶と挨拶を交わすことだった。彼はいつも由宇に「お疲れさまです」「いつも頑張ってますね」と、ねぎらいの言葉をくれる。イケメンで若くて明るい梶に会うと、気持ちがホカホカする。
梶もまた、由宇を他の保護者とはちょっと違う目線で見ていた。タイプだということもあるが、以前由宇に「男性の保育士さんは力が必要な遊びをたくさんしてくださるから、子どもたちは嬉しいでしょうね」と言ってくれたからだ。
梶はあるとき保護者が「ロリコンなんじゃない」や「娘のおむつを替えてほしくない」などと言っているのを偶然聞いてしまった。ただ純粋に子供が好きなだけなのに、その気持ちを踏みにじられたようでショックだった。
辞めるべきなのかと自信をなくしていたところに、由宇がそう言ってくれ、また頑張ろうと思えたのだ。
どんなときも笑顔を絶やさず、楓に優しく接する由宇を、一人の女性として素敵な人だと思っていた。
ある時、家で倫也と口論になる。由宇が残業で遅くなって帰っても、ご飯も炊いていない、洗濯物も外に出しっぱなし、ソファでだらだらとゲームばかりしていて、その姿を見た由宇のイライラは頂点に達したのだ。
「少しくらい協力してよ! 私はあなたの家政婦じゃない!」
と啖呵を切る。だがそんな由宇に対して「イライラするくらいなら、仕事なんて辞めてしまえ!」と倫也は大声で怒鳴った。この人とはもうやっていけないかもしれない。由宇は本気でそう思った。
倫也も倫也で由宇に対して不満を抱いていた。夜の営みを拒否られるということは、自分の尊厳を否定されるような気持ちになり、ひどく落ち込む。それに家事を手伝ったところで、由宇は必ず文句を言う。倫也が食器を洗っても、その後由宇がこっそりやり直しているのを倫也は知っていた。
素直で可愛かった由宇はどこへいってしまったのか。楓、楓で全く倫也の方を見ようとしないことに、寂しさも感じていた。
※回想
倫也とは同じ会社で社内恋愛で結婚。会社の出世頭と言われていた倫也との恋は競争率も高く、倫也を射止めたときは優越感さえ感じていた。職場でみんなに結婚の報告をしたときは、幸せで一杯だった。温かい家庭を作るんだって、あの頃の由宇は淡い夢をみていた。それなのに今では寝顔を見ているだけで殺意さえ湧いてくる。こんな風になるなんて、思いもしなかった。
結婚ってなんだろう。どうして倫也と結婚したんだろう。由宇は毎日そんなことばかり考えるようになっていた自分に気が付くのだった。
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