【四話】
第5話
四話 シナリオ
由宇は倫也に追及するべきか悩んでいた。でももし離婚だと言われたら、楓はどうなるのかと、それが不安で口に出すことができずにいた。
だが倫也の怪しい行動はエスカレートするばかり。スマホばかり見ていて、帰りも遅い。土日も「コンビニ行ってくる」といって何時間も帰らない。岬に熱を上げているのは明らかだった。
ある日曜日、岬が仕事で近くまで来たからと、由宇の家にやってきた。
「はい、これお土産。楓くんと食べてね」
平然とお土産のケーキを差し出す岬に、由宇は奥歯を噛みしめた。堂々とやってくる岬の神経が信じられなかった。岬とはこういう女だったのか。親友だと思っていたのに、まさか裏切られていたとは。
「ありがとう」
「倫也さんは今日は仕事?」
「うん、接待ゴルフだって」
「へぇ、大変だね」
白々しい。本当は全部知ってるくせに、と思いながらも、由宇は岬を家に招き入れる。それと同時に、こうなったら追及してやると意気込んだ。
しばらくはいつも通り談笑した。岬はいつもと変わらなかった。だけどやけに倫也のことを聞いてきた。あれからセックスはしているのか、とか、寝室は別なのか一緒なのかなど。適当に流していると岬が言った。
「ねぇ、寝室見たい」と。
勝手に寝室に入って行こうとした岬に、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「その前に、これどういうことか説明してくれる?」
写真に収めていた二人のメッセージのやりとりを、岬に突き付けたのだ。
「倫也と浮気してるよね」
「あ~あ、なんだ。バレちゃってたか」
だが岬は動じる様子もなく、平然とそう言った。しまいには「由宇の望みを叶えてやっただけ」と発言。
確かに以前、他で性欲を発散してきてくれたらいいのに、とは言った。じゃあつまり、私が悪いということなのかと、不敵な笑みを浮かべる岬の前で、由宇は混乱していた。
「だからって、親友の夫を寝取るなんて、信じられない」
「私、謝らないからね」
親友の豹変に由宇はたじたじになるのだった。
その晩、倫也は岬にすでに聞いていたのか、帰宅するなり土下座をしてきた。そして「別れたくない」と必死に謝罪され、由宇はどうしていいかわからなくなっていた。プライドが高くて、いつも偉そうな倫也のそんな姿に、思わず心がほだされる。元はといえば自分が拒否したのがいけなかったわけだ。自分も反省する点があると思い「時間をちょうだい」と倫也に告げたのだった。
すぐに結論がでるはずもなく、離婚するべきかしないべきか悩む由宇。ある朝、楓を保育園に送っていくと梶先生が「元気がないですが、大丈夫ですか?」と声をかけてきた。すでに心が限界に達していた由宇は、彼の優しさにその場で思わず涙してしまうのだった。
「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
「ううん、ごめんなさい。なんでもないです」
慌てる梶に由宇は精いっぱいの笑顔を作って、首を振った。それを見た梶は心が揺さぶられるのを感じ、園児の保護者に個人的な接触をすることは禁止されているが、こっそりプライベートの携帯番号を教えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます