【三話】

第4話

三話 シナリオ


その日を境に、ぱたりと夜の誘いがなくなった。由宇はせいせいしていた。倫也もなぜか最近機嫌がいい。たまに帰りが遅い時もあったり、スマホをロックするようになったりと変化もあったが、由宇は倫也のことを微塵も疑っていなかった。いや、疑う余裕すらなかったのだ。


家の中から不穏な空気が一掃され、家庭がうまく回り始めたとき、倫也への愛情が戻り始める。相変わらず何もしない夫だが、楓とよく遊んでくれるようになったことが嬉しかった。その微笑ましい姿を見ていると、理想の家族になった気がした。

だがふと、なんのスキンシップがないのを寂しく感じ始める。あんなに求めてきたのに、どうしていきなり指の一本も触れなくなったのだろうと。


ある時、岬が一緒にごはんを食べないかといいだし、由宇の家にやってきた。みんなで鍋を囲み、ワインを開け楽しんだ。

21時を過ぎたころ、楓を寝かしつけるため、由宇は子ども部屋に上がった。実はこの時、岬と倫也はこっそりキスをしたり抱き合ったりしていたのだ。何も知らない由宇は楓に絵本を読み、1時間ほど席を外していた。


その晩、少し酔っていた由宇は自分から倫也のベッドに入りこんだ。あんなに拒んでいたのに、いざ何もなくなると寂しかったのだ。女から誘うというのは、とてつもなく恥ずかしいものがあった。だが勇気を振り絞り彼に抱き着いた。だが倫也は由宇を拒んだのだ。

「ごめん、そういう気になれない」

いきなりそんなことを言われ由宇はショックを受ける。同時に虚しくて悲しかった。倫也もこんな気持ちだったのかと、ここで初めて気が付く。「忙しい」「疲れている」という言葉ばかり並べ、断られた側の気持ちなんて考えたこともなかったと反省。だがこの時点でもう遅かった。倫也は岬との逢瀬に夢中だったのだ。


もしかしたら浮気をしているかもしれないと、由宇は直感した。

「相手は誰? 会社の子?」

そんなことばかり考えていて、一睡もできなかった。だけど自分から拒絶した手前、旦那に浮気相手がいても責める権利はないと思い、外泊しても、自分のほうを見ていなくても由宇は黙って耐えた。


だがある日、倫也のスマホに怪しげなメッセージが届いていることに気が付く。倫也は帰るなりシャワーに直行していて、洗濯機の上に無防備に置かれていたのだ。

見てはいけないと頭の中では警鐘が鳴っていたが、ついスマホを手に取ってしまった。

そして驚愕の事実を知ってしまう。

「今日はすごく気持ちよかった。ねぇ、由宇ってまだ気がついてないの? バカな子だねー」

差出人は岬。スマホを片手に足元から凍り付いていくのを由宇は感じていた。まさか親友と旦那が浮気だなんて信じられず、テレビドラマでも見ているような感覚だった。

だが体は正直で、目からは勝手に大粒の涙が零れ落ちた。

「今まで二人で私を騙して裏で笑っていたの? いつから?」

そう思うと悔しくて悔しくて、自分の部屋で声を押し殺し泣いたのだった。

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