【二話】
第3話
二話 シナリオ
倫也に対し不満を抱えながらも、由宇は粛々と毎日をこなしていた。由宇が頑張れるのは、楓の存在があるから。育児は大変なことも多いけど、こんなにも愛しい感情があることを、楓を出産して初めて知った。倫也に対して不満は多いが、楓を宿してくれたことには感謝している。それに、由宇にとってはダメな夫でも、楓には世界でたった一人の父親。何度も「離婚」の文字は過るが、可愛い楓から父親を取り上げるわけにはいかない。その思いだけが、今の由宇を突き動かしていた。
そんな由宇の同期の田所詩織は、由宇から子どもの話を聞かされる度イライラしていた。詩織は結婚3年目。不妊治療を始めて1年目。不妊治療のことは誰にも話していない。あらゆる努力はしているのに、なかなか授からなくて、生理がくるたび落ち込んでいた。
そんな詩織の夫もまた、不妊治療に非協力的で、喧嘩もしょっちゅう。そんなことも重なり、由宇に楓の話をされるたび虚しくなって、ひどい嫌悪に陥る。みんな不幸になればいいのにと、由宇の話を笑顔で聞きながら、腹の内ではそう思っていた。
ある休日。高校時代の友人、岬が家に遊びに来ていた。岬とは高校時代いつも一緒に行動していて、いいことも悪いことも共有してきたいわば親友。社会人になってからもよく会っていたし、朝まで飲み明かすこともあった。
だが由宇が結婚して出産してからは、それもできなくなってしまい、最近では昼間に岬が遊びに来ることが定着していた。
岬は最近エステサロンをオープンさせたばかり。仕事柄かいつも綺麗にしていて、同級生とは思えないくらい若々しい。肌も髪も艶々。
由宇は最近おしゃれからは縁遠い生活をしているため、そんな岬が羨ましいと思っていた。元々由宇もお洒落は好きだが、子どもが生まれてからは動きやすい服ばかり選んでしまう。ヒールだって履かなくなった。岬を見ていると、独身と子持ちとの差をすごく感じてしまう。
久しぶりに会ったということもあり、おしゃべりは弾んだ。そんな岬に由宇は思わず日頃の愚痴をこぼしてしまう。倫也が家事も育児も手伝わないこと。毎晩誘ってくること。誘いを断ると不機嫌になることなど。ついヒートアップしてしまい、とどめにこう発言してしまった。
「他で性欲を発散してきてくれたらいいのに」と。
後にこの一言で、事態は一変する。
岬はそれをうんうんと共感するように、ただ頷いていた。だけど腹の内は、怒りに満ちていた。エリートな旦那を捕まえ、子どもも授かり立派な家もある。なんて贅沢なのだと。独身の岬にとってそれはただの嫌味でしかなかった。
岬はふと思った。由宇の公認なら、倫也と不倫してもいいのではないかと。岬は由宇に内緒で倫也に連絡を取る。二人は密かに会うようになるのだった。
※回想
数年前、岬は由宇に倫也のことを紹介されたときから、倫也をかっこいいと密かに思っていた。
由宇は高校のときからいい子ちゃんで、先生からも先輩からも可愛がられていた。いつも美味しいところをもっていく由宇を羨ましいと思う反面、疎ましくも思っていた。
そんな由宇が今、悩んで落ち込んでいる。岬にはその姿が痛快だった。不幸になればいいのに。愚痴を零す由宇を前に、岬はそんな感情を抱き始めていた。
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