第8話 昭和島駅〜東扇島


15:02


 昭和島駅に着いた。

段々と陽が傾いてきている。




15:07

 


 さらに進むと、大森東避難橋。

ここは通称、見晴らし橋と呼ばれ、大田区は大森東地区と昭和島を結ぶ歩行者、自転車専用の橋だ。

見晴らしばしという名前に偽りはなく、橋の上からは大森ふるさとの浜辺公園を望むことができ、

ここから見る夕日は季節によっては人だかりができるほど美しい。

ここには以前、水門があった。

水門は一般人でも通れたのだが、今は水門がなくなり、代わりに橋を建設中である。

方がないので遠回りをしよう。



15:27


 

 そしてしばらく運河沿いを進む。

人も少なく、首都高の高架下を歩くことになるが、これがまた雰囲気が良いのだ。

そしてやがて、羽田可動橋にたどり着く。

「羽田可動橋」あまり聞きなれない名詞だと思う。

それはなんぞや。と思われるだろうが、実際目にするとますますわからない。

川の上で、道路が寸断されており、川沿いを歩きたいならこの橋に歩道でもあれば幾分かショートカットできるのに、

いかんせん寸断されているのでもどかしい。

この橋は、湾岸線が未開通だった時期に羽田トンネルの渋滞緩和を目指して建設された。

使用されるときは、橋桁が旋回して、一本の端になる。これが「可変橋」の由来だ。

現在は使われてはいないので、廃墟マニアの間では有名なのではないだろうか。


 さて、ここからが問題だ。

と言うのも、ここからの道は川沿いを歩けず、格別面白くない国道をひた歩く事になる。

ヤマト運輸の羽田クロノゲートや、穴守稲荷駅とその商店街を通過して、

しばらくは首都高1号線の高架下を南下することになるが、

如何せん面白みは、ない。

だがそれもいいのだ。物事はメリハリ。プッシュアンドプル。緩急が大事で、

このわずか数分の見どころのない旅路もそれぞれに意味があるのだ。

なんなら、私が発見できなかったあなただけの見どころを探してほしい。



16:00


 そして我々が着いたのは、巨大な橋、大師橋だ。

ここからは神奈川県は川崎市にたどり着くわけだが、その前に待ち受けているのが、

『羽田の渡し跡』である。

羽田の渡しとは、江戸時代から昭和初期にかけて、多摩川を挟んで東京の羽田地域と神奈川の川崎殿町地区を結んでいた渡し船があった。

つまりは1939年に大師橋ができるまではそのような方法で川を渡っていたのだ。

現在は、記念碑のみが残されている。


 そして大師橋。圧巻の橋である。

建設には実に15年の月日がかけられた。

全長550m

横幅31、5mの立派な白い橋だ。

この辺りは河口近くなので風も強い。あなたも防寒具をつけてきて正解だったと思うことだろう。

それともそろそろ、足のかかとあたりにマメができて、歩き方が棒のようになった頃だろうか。

しかし、旅はまだ、終わらない。


 大師橋を渡り、川崎に入ると、どこか退廃的な街を歩くことになる。

工業団地、工業地帯、工場。

道端にはゴミが投げ捨てられており、どこか荒んだ雰囲気で、

実際に治安があまりよろしくないとされている場所である。

私も何度か、この辺りで殴り合いの喧嘩を目撃したことがある。

人同士のトラブルは極力避けるべし。川部の掟である。


 そのように、足の痛みに耐えながら国道1号線の高架下を歩き続けたら、

有名チェーンすき家が見えてくる。

耐えられなくなった方はここで休憩してもいい。

このすき家が見えたら、十字路を左折し、夜光と呼ばれる地を目指す。

夜光地区とは、川崎市川崎区に位置する工業地帯だ。

ここは、工場夜景マニアの間では有名で、

撮影スポットや、ドラマのロケにも使われる。

時間帯的にも、もうすぐ夜景が見えてくる頃だろう。

まるでFF7の魔香炉ような世界観だ。

そして寒い。ここにくると感じるのは足の痛みと寒さだ。

東京湾が目と鼻の先で波風がここまで吹いてくるのだ。

しっかりと襟をたて、足元を気をつけながら工業地帯を歩こう。

人と車の比率は1:9だ。

ここは本来、生身の人間が来るような場所ではないのだ。

ブルーカラーの居場所。間違っても川部の居場所ではない。

景色を楽しみつつ、謙虚に歩こう。




16:55 



 いよいよ、ちどり公園まで着いた。ここは、

一応日本本土の、埋立地の端っこである。つまり目の前は東京湾だ。

我々は実に、5時間歩いてここまできた。

しかし、実はまだゴールではない。あなたに見せたいものはこの先、

つまりは、海の先にある。

この公園にはなんと、人用の海底トンネルがあるのだ。

公園の中の森の中、割とややこしいところに、

隠されたかのようにひっそりと、その入り口はある。

川崎港海底トンネル人道である。

初めて来る人は、海底トンネルがあると知っていてもなかなか、この入り口を探すのに苦労するだろう。

がしかし、今日に限っては慣れている私がナビを務めるのだ。

街灯がなく暗い森を進み、少し不気味な海底トンネル人道入り口を見つけたら、勇気を出して赤い階段を降りてみよう。


 そのトンネルは実に1キロは続く。

あたりには、何の音なのかわからないゴーーと言う音が響く。

そして寒い。

基本的に人はいないが、たまに猛スピードで自転車が走ってくることがあるので、

なるべく端っこを歩こう。

足の痛みに負けず、1キロ。それで再び階段を登ったなら、そこは東扇島だ。

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