まるで陽だまりのよう。情熱や正義とは一味違う、変人による精神医療ドラマ
- ★★★ Excellent!!!
ウサギの被り物をした精神科医・初田。変わり者の彼のクリニックには様々な患者がやってくる。目に見えない、「普通とは違うもの」を抱えて迷う彼・彼女たちを導くため、初田は患者たちやその家族と向き合っていく。
連作短編的な形式の精神医療モノです。パーソナリティ障害などの精神障害、投影法・行動療法などの専門的な内容を含むのはもちろんですが、メインは治療過程で見えてくる葛藤や成長などの人間ドラマにあると思いました。
患者はクリニックに「つらい」と泣きながら訴えにくるのではありません。なぜ受診する必要があるのかわかっていなかったり、自分が傷つけられていることに無自覚だったりします。さらには、問題となるのは患者本人だけではありません。周りの環境から悪影響を受けている場合があり、その悪環境の中にも「普通とは違うもの」が潜んでいます。
初田はそんな「普通」の通用しない相手たちと向き合い、決して患者のことを見捨てません。
しかし、彼がそうするのは、「人を救いたい!」等の熱い正義感に駆られて、というわけではありません。彼自身も「普通とは違う」変わり者であり、彼独自の感性をもっているのです。
患者を理解し、受け入れるクリニックの雰囲気はあたたかく、優しく、安心感を覚えるものであり、それは真実でもあるのですが、それとは別に、来談者中心療法といった理論に基づくものでもあるのだろうと個人的には感じました。
私はそんな患者や初田たちに、すごく感情移入することができました。あたたかい気持ちになったり、ジンとしたり、ヒヤッとしたり、クスッとなったり。応援せずにはいられませんでした。
読んでいて何度も浮かんだのは「鏡」のイメージです。他人の中に自分を見出だしたり、鏡に映ったように反対であったり……他人とは鏡なのだと、そんな印象を抱きました。
クリニック関連のシーンの他に、ウサギの被り物に纏わるエピソードも絡み、そちらからもまた、雰囲気の違ったエンタメ要素を感じることができました。
ひとりでも多くの方と感想を共有したい、魅力的な作品です!
小説として面白いのはもちろん、ドラマ、漫画、アニメとしても見てみたいです。
今後のエピソードもとても楽しみです!
(※「ケース3」の「閑話5」までを読んでのレビューです)