第2話ーー新的开始

 無間はまだ、この日本の学生だけが持つ独特な「暇な日常」に完全には慣れていない。いつも通り、朝6時に目を覚まし、洗面を済ませてから朝食を作り、食器を片付ける。家を出る頃には、青森県の太陽はまだヒマラヤ山脈の彼方で輝きを隠したまま、人々を起こそうとはしない。彼は風に舞い落ちる桜の花びらを踏みしめながら、ゆっくりと学校の門へ向かう。出迎えてくれた当番の教師に挨拶をして、靴箱の横にある自動販売機で飲み物を買おうとしたが、硬貨しか使えないことに気づく。


「自分で水を持ってくればよかったのに。。。」


 まだ、6時半を過ぎてもキャンパスには静かに。無間は、以前の教室でのみんなの元気な朝読書の声が少し懐かしい。階段を登って四階に行き、男子トイレで鏡に向かってさっき着替えたばかりの制服を直してみるが、どうにも自分にはしっくりこないようだった。


「どうしても僕に似合わないな。。。」


 服装の調整を諦め、廊下の窓を開けて朝のそよ風を楽しむ。窓からは、正門から入ってくる未来のクラスメートたちの姿がよく見えた。


「そこの生徒、入学試験なら、私についてきて。」


「ん?」無間が声の方を見ると、小さな体に魔法帽をかぶった金髪の少女が彼をじっと見ている。


「魔法使いと。。。女子高生?」


 その違和感に驚く無間をよそに、彼女は魔法使いと女子高生という二つの要素を完璧に融合して見せていた。


「新入生かい?」少女が少し北欧訛りのある日本語で尋ねる。


「はい。」


「私の前で顔に驚きが出てるのは、新入りさんだけだね。」彼女は無間の背後の壁に手を当てながら続けた。「私はバスタ・カステル。生徒会副会長。バスタでいいよ。爆発に備えろ。」


「?」


 バスタが手に魔力を込め、壁にそれを注ぎ込むと、赤い炎のような魔法陣が浮かび上がり、「ドン!」という大きな音とともに壁に穴が開いた。バスタはまるで何事もないかのように、灰まみれの無間はまだ隣にぼんやりしている。


「この壁はすぐに自動で直るから心配しないで。さあ、進もう。」


「労働者さんたちが直すわけじゃないんだ。。。」


 バスタの手のひらに小さな火の玉が浮かび、彼女はそのまま開いた穴の中に入っていく。無間も慌てて彼女に続きながら自己紹介をした。「僕の名前は磔無間。入学手続きを終えたばかりの新入生です。」


「知ってるよ。今年の新入生で仙人って無間だけ。印象深いわ。」


 火薬と灰の匂いが漂う通路の中で、無間はさっき開いた穴がすでに元通りになっているのを確認した。


「霊力で補強されて、自己修復する岩で作れた壁か。」


「よく見てるね。私は君を採点する先生なら無間くんはもう合格したわ。」


「普通の試験じゃないですか?」


「異能者はまず『マナテスト』から。試験紙なんて出ないよ。」


「マナテスト?」無間は考え込んだ。「霊界の試霊石みたいなものか。」


「着いたよ。」バスタは再び壁に手を当て、またもや「ドン!」と爆発させて穴を開けた。煙が晴れると、穴の向こうには果てしない草原が広がっていた。


小世界しょう せかいか。。。」


 無間には馴染みのある光景だった。


 現在の研究によれば、現世とは別の霊界や陰陽界、異世界のように、たくさんな独立した小さな空間があらゆる世界の間に浮遊しているらしい。しかし、このような小さな異空間を切り拓く技術は、仙人だけが持つものだ。


「この草原は、かつての生徒会の仙人が創ったんだ。ここで少し体を慣らしておくといい。用事があったら、前方に見える生徒会室まで来て。」


 そう言って、バスタは無間を置いて去っていった。無間は霊力を耳、目、脳に集中させ、地面に踏み出した一歩が魔法陣を浮かび上がらせる。その陣は彼の周囲一帯をすべて感知し、さらに範囲を広げて五キロ先までの草原の端を捉えた。そして、約1キロ先にある中世風の城が、生徒会の拠点であるらしい。


元婴期げんえい きの仙人か……」

 この仙人が創った草原も、霊力の基盤がすでに弱まっているらしい。無間は推測したように、この空間も崩れてしまうまで多分十年がある。



「早いね、カレン。体調はどう?」


「前より良くなったよ。。でも、この一年病院でずっと過ごしてたから、あの真白の天井にもう飽きちゃった。でも同じ学校にいられるだけでどうでもいいよ。」


「へへ、それじゃあ放課後にカレンのクラスに遊びに行くね!」


「うん、じゃあまた午後ね、梨雨なしあめ。」


 白髪の少女ーーカレンは友に手を振って別れを告げ、いつも通りに靴を下駄箱にしまい、廊下を歩いていく。人混みの中、自分の教室に向かい、後ろの窓際の席に腰を下ろした。彼女は花粉症患者のように巫女に特別に作られたものマスクをしている。


 そのマスクはカレンの喉にいる「穢れ」を抑えるもの。


 カレンは机に伏せて少し休みながら懐中時計を取り出し。その黒曜石のような瞳は、時計の中の一人の少年の横顔の写真にぼんやりと焦点を合わせる。少年は黒いコートをまとい、首に黒いヘッドホンを掛け、顔に合わない微笑を浮かべている。


 その少年は、彼女の「初恋」だった。


 彼らは現実で会ったことはなく、コード:ドラゴンブラッドで知り合っただけだ。穢れに蝕まれていたカレンに希望と勇気をくれた少年。彼が先にカレンに写真を交換しようと提案し、彼の横顔の写真を送ってくれた。


「NAKI……」


 カレンのアカウントがどうしてあの男の手に渡ったのか、彼女は分からない。あの男は「愛」と称し、カレンの死を偽ってNAKIとの連絡をすべて遮断し、さらに「これも全てカレンを愛しているからだ」と平然と言い放ったきり、彼女の前から姿を消した。


 今となっては、その男が何らかの報いを受けているかもしれない。しかし、NAKIとの繋がりもまた二度と戻らない。彼の写真だけが、残された唯一の記憶だった。


 カレンは懐中時計の「カチカチ」という音に耳を傾ける。もし自分が中国に彼を探しに行けたら、あるいは彼がこちらに会いに来てくれたら──。自分の好きなチャイナ服を着て、二人で街を歩き、遊園地の観覧車に乗って、頂上から夕陽の風景を一緒に眺めることができたらどうでもいいわ。


「はい、はい、みんな静かにしてください。」中年の男性の声がカレンの空想を遮った。黒板に名前を書きながら、先生は教壇に立つ生徒たちに向かって話し始めた。


「私は衛宮夏津えみや なつ、これから君たちの担任先生、まだ歴史の先生です。よろしくお願いします。」


 衛宮先生は眼鏡を押し上げて、教室の生徒全員が席についているのを確認してから、さらに言葉を続けた。「みんな、席はすでに決まっているようだから、座席を改めて決める必要もないと思います。それでは、まずホールで入学式を行い、その後に教室に戻って出席確認をします。」


「はーい!」



「マナ安定度、合格!」


 テストに合格した金髪の少年は、試霊石に置いていた手を引き、ホッと一息ついた。その後、先生の指示に従い草原を後にして現世に戻る。


「さっきから気になってたんだけど、試験があるって言ってなかったっけ?」


「補考があるのは無間くんだけよ。」隣にいたバスタが説明する。「他の生徒は二週間前に入学試験を受け終わってるの。よく間に合ったわね、もう少しで退学扱いになるところだったわ。」


「そんな脅かさないでくださいよ…」


「次、磔無間!」


 無間は早足で試験会場に入った。会場には魔力が満ちた人の背丈ほどの石が二つあり、これが無間の言う「試霊石」だ。一つは魔力レベルを測定するため、もう一つは魔力の安定度を測定するために使われている。そして、凡人である教師が結果を観察しやすいように、試霊石の後ろに魔力の紋様がつながり、スクリーンような設備が付けている。


「どうやら現世も異界とつながり始めたようだな。」


 無間は手を石に置き、霊力を注入する。試霊石の隙間から黒、白、青の三つの光が現れ、天に高く舞い上がった。周りで観察していた先生たちは目を押さえ、後ずさる。バスタと銀の鎧をまとった金髪の騎士が教師たちを守るように立ちふさがる。金髪の騎士は無間に向かって「手を引いてください」と言って、先生に向き直って「岩崎先生、磔無間のテストが終了しました。記録をお願いします」と告げた。


「わかった。」


 無間が一歩下がると、岩崎先生は画面の前に進み、スクリーンに表した値を確認し、記録した後、叫んだ。

「磔無間、レベル四十八!次のマナテスターへ移動してください!」


 その声に、後ろにいた他の生徒たちが軽い驚きの声を上げた。


「レベル四十八の実力者か~」


「もう一人に巨人の秘宝を探しに行けるレベルだ。」


「俺も頑張れなきゃ。」


「現世じゃこの石を『マナテスター』って。名がダサい。」無間は呟きながら、二つ目の測魔石のそばに歩を進め、手を置いて霊力を注ぎ込んだ。今度の石は光を発するのではなく、小刻みに震え、今にも砕け散りそうな様子だった。無間が注ぐ霊力を少し調整すると、石は静かに安定を取り戻した。


 岩崎先生は二つ目の画面の前に立ち、読み取り値を確認し、大声で叫んだ。


「マナ安定度、合格!」


 金髪の騎士が無間に手招きしながら言った。「それでは、こちらへどうぞ、無間くん。」


「はい。」


 無間がその金髪の騎士に近づくと、恭敬に腰を深く折り曲げた。その瞬間、彼の背中に輝く銀の鎧が柔らかな月光を反射した。騎士は上手な日本語で無間に語りかける。


「こんにちは、無間さん。私は異世界から、月神セレネの加護を受け、邪悪を討つ『月光騎士ルナナイト』、その名はーールナ・アルテと申します。アルテでお呼びください。」


 アルテの礼儀正しい言葉に無間は少し戸惑った。騎士が礼儀を重んじ、相手に敬意を表するとは聞たことがあるが、ここまでとは思っていなかった。無間は心の中で、自分もこの現世にいる間は霊界の仙人を代表して、ここで同じように敬意を返さなければ、相手の礼儀を台無しにしてしまうと思った。


 アルテの自己紹介の流れに合わせ、自分も同じように名乗るべき。ただ、アルテのように神の加護を得た騎士には「月光騎士」特別な称号が与えられた。しかし、無間は霊界ではあまり有名でなく、称号などもいない。


 今ここで作る?


「うん。。。僕は霊界から来た、生滅両儀逍遥仙しょうめつ りょうぎ しょうようせん。創生と毀滅の三重霊脈を持つ者、磔無間です。」


 目の前には広い草原は仙人に作れたものが、現世と同じような天気の変わりがある。遠くには霧に包まれた城壁がぼんやりと見え、それが無間が先程感じた中世風の城であることがわかった。二人が草地を歩くたび、足元で草が「カサカサ」と音を立てる。アルテが横を向き、無間に問いかけた。


「私の愚かさを許してください、無間さんが言う『創生と毀滅』の二つ霊脈なのに、なぜ三重と言うなのですか?」


 アルテの純粋な青い瞳には真剣な好奇心が宿っている。無間はその眼差しに圧され、どう説明しようかと少し考え込む。


「多くの仙人は、生まれ持つ霊脈が一つだけなんです。その一つの霊脈は白紙のようなもので、師匠たちがその紙に色を付ける。でも、一部の人間は複数の霊脈を持って生まれてくる。僕はね、天生の霊脈に創生と毀滅の霊脈を加えて、合計三重、というわけです。」


「私の『霊脈』なら、月神から授かった『月光』のでしょうか。」アルテは自分の鎧の背に刻まれた満月の模様を指さしながら言う。「無間さんのおっしゃる通りなら、月神も私の『師匠』ということですね。」


 無間は確かにそうだな、と納得する。


「無間さん、ひとつお願いがあるのですが…」


「何ですか?」


「今日の放課後、無間さんは私とアリーナに試合してください。私は月神と家名を守るためにもっと強くなれなきゃならない。」


「アルテのレベルは?」

「恥ずかしながら、レベル五十三です。霊界の基準に合わせれば、ちょうど帰元きげん期の初期でしょう。」

 無間の予想通りだった。霊界の実力階級は、筑基ちゅっき期から始まり、練気れんき期、結丹けつだん期、そして金丹きんだん期、次いで帰元きげん期、元嬰期、天元てんげん期。天元期の上に「期」ではなく「境」と称され、天元期の次が化虚げっしょう境、煉虚かっしょう境、破極かっしょう境、天虚かっしょう境、そして最後に渡劫して神格を得る、神になる昇天する。無間は飛行機で服用した丹薬のおかげで金丹期の最終段階、つまり四十八階まで回復していた。


「月神に誓いによって、無間さんが私よりも低い階級だからといって、決して侮っているわけではありません。むしろ、無間さんの力はその四十八階をはるかに超えていると見受けられます。」


 アルテの言葉は的を射ていた。無間はかつて、天地を自在に巡るほどの力を持っていたが、その力の程はどのくらいか記憶はない。ただ、何も妨げられることなく旅ができることを覚えているだけ。


「いいですけど。」


「では、放課後アリーナに。」アルテはにっこりと微笑んだ。「あそこに見えるのが生徒会、そしてあなたの次の試験会場です。バスタから聞いているかと思うので。」


 無間がアルテについて歩いていくと、やがて城壁の前に到着した。東西に広がるその城壁は大理石で造られており、年月を経てもなお白く輝いていた。アルテは銀色の槍を手に出現させ、城門を指差すと、それが開かれた。目の前には赤いレンガで築かれた高くそびえる城が立つ。「スゲー城だった」無間は思わず感嘆した。しかし、その感動を表情には出せなかった。過去の爆発の痕がまだ残っている顔では、驚きの表情をうまく作れない。


 城の中に入ると、無間の目の前には広々とした会議ホールが広がっていた。床は現世の玄武岩で敷かれ、窓には異世界特製の七色のガラスがはめ込まれ、鮮やかな絵画が描かれていた。ホールの奥には、桜の木を彫刻した柱を囲む二つの螺旋階段があり、2階へと続いていた。その間には五人が彫られた銅像があり、年季が入っていて顔立ちは分からないが、台座には「青森公立高校第五期学生会」と刻まれている。


「無間さん、こちらへどうぞ。」

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自分で自己記憶を消したの仙人はただ平和に暮らしたい KINSHINNAKI @KINSHINNAKI

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