第40話 お出かけ準備


 作戦会議の翌日。

 朝早くから訓練場に来ていた。

 

「さあ、時間もないし特訓を開始しようか」

[気張っていこー]


 目の前には賢者とヨロイ。

 そして、僕は半透明の結界に閉じ込められていた。


「なんで!? 今からなにすんの!?」


 え、怖いんだけどここ。

 どう考えても真っ当な訓練じゃないよね??


「魔力の圧縮で行き詰まってるんだろう? 手伝ってあげようかなって」


「果てしなく不安!!」


 いや、手伝ってくれるのは嬉しいけどさ!

 これは、なんか嫌な予感しかしないよ!?


「じゃ、よろしくヨロイくん」


[あいよー]


 ヨロイがこちらに手をかざす。

 いや、いやいやいや……!!


 グ、グググ……。


 結界が徐々に縮んできてる!?


「待って待って待ってぇ……!!!」


 なんなんだよこれぇ!!

 圧縮されちゃうんじゃないの僕!?


「怖い!怖いよこれ!!頼むから出してくれぇ!!」


「はっはっは、早くコツを掴むことだねぇ。そうしないと、ほんとに潰れちゃうよ?」


「潰さないで!!」


 コツってなに?

 というか、こんな状況でなにをどうしろと??


[コウくん落ち着いてー]


「落ち着けるかぁ!!」


 むりむりむりむり!

 ああ……!だんだん迫ってきてるぅ!!


[今コウくんは魔力圧縮の中にいるんだよー。魔力を感じて、感覚を掴むのだー]


「あ、そういうこと!?」


 なんでこんなことするかなぁ。

 めちゃくちゃ動揺しちゃったよ。そういうことなら、ゆっくり……。


「早くしないと、骨が軋むくらいには圧縮するよ?」


「頑張ります……!!」


 賢者はやると言ったらやる。

 なんとかしないと……。


 結界の中央に座り、目を閉じて集中する。

 こうしてみると、魔力の流れがよくわかった。ああ、確かにこれはわかりやすい。この訓練方法自体は間違っていないと思う。


 あー、なるほどね。

 結界は小さくなってきているが、魔力の量は変わらないのでだんだん強度が上がってる感じがする。密度が重要ということか。


 今までは魔力をひたすらに小さく押さえつけるイメージだと思っていたのだが、それでは魔力が霧散して上手くいかなかった。でも、この感じだと箱の中にパンパンに魔力を詰め込んでも強度は上がりそうだ。つまり、魔力を詰め込む硬い容器のイメージが必要ということ? ……いや、これ難しくない?


「もう時間がないよー」


 賢者の言葉に思わず目を開ける。

 結界が目の前に迫っていた。


「ちょ、もうできたから!止めて止めて!」


[嘘はよくないぞー]


 くっ、バレてる……。

 ええと、容器、容器か。いや、別に容器じゃなくていいのか。硬い箱で、隙間なく魔力の漏れないような……。


 あ、まずい結界が体に当たってるめっちゃ怖い。

 ええい、もうヤケクソだ!硬い箱に魔力をブチ込め……!!


「……あ、なんかできたかも」


[おおー]


 結界の収縮が止まった。

 あっぶねー。もう身動き取れないくらいの大きさになってるよ。


「うんうん、上手くいったね。やっぱり、追い込まれると成長するよね」


「……なんか、納得いかない」


 でも、できちゃったからな。反論もしづらい。

 そんなことより、早く解放してくんない?


「さてさて、せっかく結構強力な結界もあるから体感してもらおうかな」


「……え、なにを?」


 もうさっきから嫌な予感しかしない。

 え、なんでって? いつの間にかすぐそこにリュウが来てるからだね。


「じゃ、リュウくんやっちゃって」


「はっはー!いくぞ?」


 いやいやいや、いかなくていいよ!?


「龍閃!!」


 赤黒い閃光が迫ってくる……!!

 結界があるとはいえ怖すぎる……!!

 

「……お、おおー」


 思わず目を瞑ってしまったが、恐る恐る目を開けると結界は微動だにしていなかった。すごいな結界。


「どの程度の強度で防げるかを見極めるのも大事だよ? 無駄な圧縮は消耗するだけだからね。まあ、初見の高原だと強めにしておいた方がいいとは思うけど」

 

[まあ、まずは圧縮をスムーズにできるようになることだねー]


「……頑張ります」


 ヨロイが結界を解いてくれたので、立ち上がり伸びをする。うーん、窮屈だったな。でもまあ、収穫はあったか。あとは自主練あるのみ。


「やっぱもっと危機感あった方が上達するんじゃねぇか? もっと追い込もうぜ!」


「お前は黙れ!!」


 リュウが笑顔でいらんことを言っていた。

 ほんとにやめてください……。



――――――



「ちょっと来てくれるかい?」


 訓練後、賢者に呼ばれたので二人で城に戻っている。どこに行くんだろう。


「大陸に渡る前に、念の為コウくんに守護の術式を施しておこうと思ってね」


「え、ありがとう」


 なんだいいやつか?

 いや、でもそれなら行かない方が安全ではあるんだけど。まあ、もう覚悟はできたからいいんだけどさ。

 

 そう思っていると、到着したようだ。ここって、カミの部屋じゃなかったっけ。


「カミくん、ジィさん。準備はできてる?」


「問題ない」

「ちょうど今終わったわぃ」


 中に入ると、カミとジィさんがいた。

 あと、アイミィもいるな。こんなところでなにしてるんだろ。


《あ、コウなの!》


「やあアイミィ。なんでここに?」


《アイミィも手伝ってるの!》


「そうなんだ。ありがとう」


 アイミィまで駆り出されているとは。

 結構大掛かりなものなのかな。部屋の真ん中に魔法陣っぽいものがあるし。


「それじゃあ、コウくんはそこの魔法陣の中に入ってね。あ、アイミィもよろしく」


「お、おう」

《はいなのー!》


 なんか怖いんだよなぁ。

 さっきも説明なしでいきなり結界に閉じ込められたし。今回はアイミィがいるから大丈夫だと思いたいけど。


「……先に聞いとくけど、痛くないよね?」


「ん? ああ、今回は痛くないし苦しくもないよ。ちょっと熱く感じるかもしれないけどね」


「ほんとだな? ちょっとなんだな? 信じるからな?」

 

「ははは、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 今までの行いを振り返ってみた方がいい。

 ただまあ、全部僕のためになることだったから強くは言えないけど。


 恐る恐る、魔法陣の中に入る。

 入っただけでは、別になんともなかった。


「さて、始めるとするかのぉ」


 ジィさんが跪いて魔法陣に手を当て、なにやら呪文を唱えている。魔法陣が淡く輝き出した。


《きれいなのー》


「そうだねぇ」


 肩に乗ったアイミィが楽しそうにしている。

 なんかそれだけで安心できるな。


 呪文は続いているが、よく見るとジィさんの額には汗が浮き出ていた。え、大丈夫なんだろうか。


「……ふぅ、老体には堪えたわぃ。カミよ、仕上げは任せたわぃ」


 やがて、汗を拭いながらジィさんが立ち上がった。


「ああ」


 言葉少なく、カミがこちらに手を向ける。

 すると、魔法陣が強く輝き出した。そして、右手の甲が若干熱くなってきた気がする。


「さあ、これが最後だ。アイミィ、コウくんに祝福を」


《わかったの。コウ、手を出すの》


 アイミィに言われるがまま、手を前に出す。

 その上に、アイミィが乗った。


《アイミィの名において、この者に祝福を》


 お、おお。

 アイミィまでもが輝き出し、手の甲の熱はこれまで以上に上がっていた。だが、不思議と痛みはない。


 しばらくすると、熱が引いていった。

 手の甲には見慣れない紋様が薄く浮き出ている。なんだろうこれ。花弁みたいな感じ?


「……うん、完了したみたいだね。お疲れ様。何か異常はないかい?」


 そう言われて、確認してみるがなんともない。


「特に問題はなさそう」


「そうか、それはよかった。かなり複雑な術式を組んだからね。成功して良かったよ」


 賢者が珍しく安堵しているようだ。

 これって結局なんなんだろう。


「詳しい術式の内容については、また改めて説明するよ。必ずコウくんの役に立つものだから安心してね」


「お、おう」


 また教えてくれないみたいだ。

 まあ、もう慣れたけどね。


「それじゃあ今日は解散だ。明日からは魔法の練度を上げていこうね」


「あー、疲れたのぉ。コウよ、風呂にでもいくかぁ」


「おー、いくいく」


 今日はもう終わりみたいだ。

 明日からもしっかりと訓練していこう。


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僕は英雄ではないが、英雄は僕である 綾丸音湖 @ayayayaya0805

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