第39話 次なる救出作戦


「皆様、お集まりいただきありがとうございます」


 城の会議室で、マユルワナさんが頭を下げている。

 この場には、カミ以外の僕らとジュルトラさんが集まっていた。


「様々な情報を整理した結果、次の救出作戦を結構する場所を決めました」


 マユルワナさんが机の上にある大きな地図の一点を指差す。そこは、この島からの北側にあり、前回よりも遠い場所だった。


「この地にあるガラゼド大監獄を解放します」


 ガラゼド大監獄か。

 前回は確か、なんとか監獄だったが今回は大監獄。どう考えても規模が大きくなっているんだろうな。


「大監獄というくらいだから、救出する兵士の数も多いのかい?」


「申し訳ありませんが、人数は把握できておりません。できる限りの兵士を救っていただきたく思います。こちらも、全ての船を出すつもりです」


 かなり大規模な作戦のようだ。


「そして、前回と同様に必ず救出してほしい者がいます」

 

「姫様、やはり某としては反対なのですが……」


 ジュルトラさんが苦い顔をしている。

 紳士っぽいジュルトラさんが反対するってどういう人なんだろう。


「ジュルトラの気持ちもわかります。ですが、戦力としては一級品です」


「それは……そうですが……」


 ここまで渋られるって相当だと思うのだが。

 なんか心配になってきたな。


「皆様にもご説明いたします。今回救出していただきたいのは、十王剣の一人である第三剣のカリーシャという者です」


 第三剣ということは、第六剣とかだったジュルトラさんよりも強いのかな?

 

「〈不倒剣〉の異名を持つ別格の強者ではあるのですが…………少々性格に難がありまして」


「いや、あれはその程度ではないと思いますが……」


 マユルワナさんが言いにくそうにしていたが、すぐさま訂正が入った。


「……ええと、そうですね。かなり強烈な個性を持っていまして」


「某が、説明いたしましょう」


 マユルワナさんの様子を見かねたのか、ジュルトラさんが説明を買って出た。


「端的にカリーシャを表すと、姫様の信奉者と言えましょう。度が過ぎているのですが……」


 ジュルトラさんもどう言おうか迷ってる感じだな。


「姫様の近くにいるものには、見境なく牙を剥きます。特に男性に対しては。ですので、英雄の皆様がおられるこの場所には近寄らせたくないのですよ」


 見境なく? それはちょっと怖いな。

 会話しただけでも襲われるってこと?


「……そんな人を救出したくはないんだけどね」


 賢者が苦言を呈している。

 僕も同じ気持ちだ。


「そこは、しっかりと言い聞かせますので!わたくしの言うことは聞いてくれるのですよ?」


「うーん……そんなに重要な人なのかい?」


 賢者が疑問を口にする。

 明らかに面倒くさそうな人なのに、それを上回るメリットがあるのだろうか。ただ強いだけだったら、別にいない方がいい気がするんだけど。


「そうなのです。本人が強いことはもちろんなのですが、彼女には人を従える不思議な力がありまして……。その力は、今後の我々に絶対に必要なものなのです!」


「ふぅん、魅了かなにかかな? まあ、いいさ。そこまで言うなら救出には向かおう」


 やけにあっさり了承したな。

 まあ、どのみち賢者としては大陸で情報を集めたいだろうから行くつもりだったんだろうけど。


「ありがとうございます!!」


 マユルワナさんは満目の笑みだ。

 だが、その表情が曇る。


「今回の作戦についてなんですが、申し訳ないことに監獄内部の構造がわからないのです。そのため、現地で皆様に任せる形になってしまいます」


「ん? ああ、それで構わないよ。今回は万全を期して全員で行くつもりだから」


 おー、全員で行くのか。

 ……全員? まさか、僕は入ってないよな?


「それは心強いです!こちらからもジュルトラを……」


「いや、ジュルトラはこちらに残しておくといいよ。魔獣の襲撃とかがあった場合、戦力が必要だろう?」


「それは、確かに……」


 ジュルトラさんが残るならここはたぶん安全だな。

 えっと、僕は行かないよね?


「今回の作戦は、私たちで向かうよ」


「え……?」

「えぇ!?」


 マユルワナさんと言葉が被った。

 いや、それどころじゃない。七人って僕も入ってるよね?? なんで僕も行くんだ役に立たないぞ。


「……その、コウ様は残った方がよいのでは?」


 マユルワナさんが気遣うようにこちらを見た。

 悔しいが、その通りだと僕も思う!


「前回の作戦で思ったんだけど、雑用係がほしくてね」


「それなら、他の兵士をつけることもできますし……」


「それに、英雄として召喚されたのに一人だけ残っていたら他の人から何を言われるかわからないだろう?」


「それは……」


 マユルワナさんが言い淀んでいる。

 先日、僕が住民の一部から受けた非難を思い出しているのかもしれない。


「まあまあ、別にコウくんはこちらの陣営で戦わなくてもいいんだろう? それなら、危険はないさ」


「それは、そうですが……。いえ、わかりました。コウ様、どうかお気をつけください」


「……わ、わかりました」


 拒否権なんてなさそうだった。

 ほんとに行かないといけないの?


「さて、作戦と言えるほどのものではなく、皆様の力に頼りきりになってしまいますが、今回もどうぞよろしくお願いいたします」


 マユルワナさんが深く頭を下げている。

 これはもう、行くしかないんだな……。


「それでは、解散といたしましょう。出発は十日後ですので、皆様準備をお願いいたします」


 こうして、作戦会議は終了した。



――――――――



「なんで僕も行くの!?」


 いつも通り、みんなで僕の部屋に集まっている。

 ちょっとこれは流石に問い詰めないといけない。


「そろそろコウくんも外に出た方がいいと思ってね」


「急に!? 先に言っといてよ!」


「別に先に言っても何も変わらないじゃない」


 いや、変わりますけどね!

 主に僕の気持ちとかが!


「まあまあ、とりあえずあと十日あるんだし自衛できるくらいには仕上げようよ。私たちも色々と手伝うからさ」

 

「……わかったよ」


 どうせ行くのに変わりはないんだから、頑張って準備するしかないか。外の世界も気にならないと言えば嘘になる。


 ただなぁ……やっぱり怖いよなぁ。

 

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