epilogue
普蕭は語りながら涙ぐみつつ微笑した。
「おかしな男だった。
あれがラスト・ライブだったんだ。彼の。
自殺じゃない。死は表現の手段でしかなかった。観客もいない、意味すらもない、純粋なパフォーマンスのための。
誰も交えない、思いどおりの、何の制限もないパフォーマンス、そう、死すら彼を制御できなかった。
最もピュアな、純度の高いライブだ。微生物すら存在できないほど純粋な、成層圏を超えた透明な青の空気のように、あらゆる生存を拒絶して・・・・・
矛盾だらけだ。彼はあるとき僕にこう言ったんだ。
・・・・・・・芸術(Art)は平穏なときでなければ楽しめない。所詮、平穏時の慰みに過ぎない。御大層なもんじゃない。
苦しみにもがきのたうつとき、嫉妬の情炎に烙かれ悶え爛れるとき、現実に迫る恐怖・絶望・焦燥に震えて身も心も牽き裂けるとき、人はArtのことなど考えるだろうか。その程度のものなのさ。
戦時や貧困や闘争にあっても楽しめるかもしれない。だが本当の苦しみのど真ん中にいるときには顧みる余裕などないだろう。
芸術は苦しみを救わない。よほどドーパミン(※1)かアドレナリン(※2)を噴出させる思い込みでもあれば別だが。ふ。
いや、そうであってもどうか。歯痛止めの呪文もいまや人を歯痛からは救えない。
アートが人生の艱難辛苦を背負ってくれることはない。心をわずかに癒し、堪忍の足しになることはあるかもしれないが。しかし仕事を代わって片附けてもくれないし、家族の世話を看てもくれない。借金の肩代わりをしてくれることもない。
人はただ独り死んで逝くだけだ。昏(くら)い死に意識を塞(ふさ)がれ、その淵に落ちて逝くときには誰も居合わせることができない。
芸術とは何と虚しいものか。
人の営みは。
真実も現実性もない。人は死を超えられない・・・・・・・・・
ってね。
しかし彼は超えてしまった」
※1 ドーパミン(英: Dopamine)は、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、アドレナリン、ノルアドレナリンの前駆体でもある。運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる。
※2 アドレナリン (英:Adrenaline) (英名:アドレナリン、米名:エピネフリン、IUPAC組織名:4-[1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチル]ベンゼン-1,2-ジオール)とは、副腎髄質より分泌されるホルモンであり、また、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもある。分子式はC9H13NO3。ストレス反応の中心的役割を果たし、血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、瞳孔を開きブドウ糖の血中濃度(血糖値)を上げる作用などがある。
(※1及び※2はいずれもウィキペディア フリー百科事典(2011年9月11日現在)より引用)
Ekstase -脱自態- しゔや りふかふ @sylv
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