ドライな文体、ウェットな情感

作者様は女性の語りの艶っぽさに定評がありますが、本作ではそちらは封印して、奇譚を連ねます。

文体はドライ。ホラーは語り口も怖さのうちですが、本作はむしろ小説界の平均よりも登場人物を突き放して淡々と描写します。

しかし、物語のどこが恐いかというと、人の情感なのです。

ゾンビが襲ってくるとか、チェーンソーを持った男に襲われるとか、物理的に生命が侵されるという描写は出てきません。

人の心の奥底、それも不条理でなく、むしろ作中人物の念が本人の意図でなく世界の道理にそって解釈されると必然としてたどり着く結末が静かに恐いのです。

言ってみれば、自業自得。昔から日本で語られてきた思想に近いです。

舞台は現代でも、世の道理は変わりません。人とは、世とは、こういうものでした。読み進めると我が身を振り返ります。