第13話 情報屋最前線

「兄貴、ちょっと煙草買ってくるわ」

そう言い残し、シーカは事務所を出ていった。シーカがふらっと会社を出ていくことは別に珍しくない。


「煙草を買ってくる」といって1時間いなくなることもあれば、そういって2日間いなくなることもしばしばだ。


それでもシーカから提供される情報はどれも信頼できるものであるためサイキは容認していた。


「今度はどんなネタ掴んでくるんだろうな」


とサイキは呟きながら事務作業に取り組んだ。


 シーカはルディス郊外にあるアパートの一室を訪ねた。


「来たぞ。お前ら」


部屋にいたのは竜人の大男と顔を布で覆った若者がいた。


「おせーよ。シーカ」


「お久しぶりです。シーカ先輩」


竜人の名前はジス、若者の名前はアルベエ、シーカの情報屋仲間にして『蜘蛛傘連盟』のメンバーだ。


「それでジス、連盟から仕事来たって本当か?」


「まあそう急かすなって。結論から言うと本当だ。ただちょっとめんどくさいからお前ら呼んだんだ」


そうしてジスは手に持っていた資料を机の上に置いた。


「実はな……政治家たちの乱交パーティーが近いうちに開催されるんだ。その様子を撮影魔法で抑えてくれって」


「うわ、ずいぶん気色悪い仕事が来たな。ちょっと引いたぞお前」


「撮影は分かりますがでもなぜこの時期なんでしょう?」


「ほら、アルベエここじゃそろそろ選挙の時期が近いだろ?今のタイミングで集めれる情報を集めておくんだよ」


ジスはさらに追加の資料を持ってきた。乱交パーティーの会場の位置と周辺の地図だった。


「シーカ。お前はパーティーの日時を調べてくれ。アルベエは逃走経路4~5本用意してくれ。俺は潜伏用の魔法を調達してくるから」


ジスが言い終わるとシーカは今までの資料を集めてマッチを用意した。


「アルベエ、ジス、資料は頭に入ったな?これ燃やしていいか?」


2人はうなずくとシーカはマッチを擦って気色悪いことが書かれている資料を燃やした。


その日シーカが事務所に帰ってきたのは3日後だった。


作戦決行日、会場はある貴族の別荘だった。周囲が自然豊かなところであり、屋敷周辺には護衛が数人いるだけだった。


近くの草の中で3人は身を潜めていた。


「ここまでは計画通りだが油断するなよ、おまえら」


「誰にそんなこと言ってんだ。ジス見張りちゃんと頼むぜ」


小声で軽口を言った後、シーカはアルベエの手を引いて護衛の一人の影に潜り込んだ。影に潜り込む能力はシーカたち兄弟の能力の1つであり人や物の影から影へ移動することができるのだ。


知らず知らずのうちに取り込んだ護衛は交代の時間になり屋敷へと入っていった。これもシーカたちの織り込み済みであった。


周囲の監視をうまく潜り抜けながら影伝いに移動したシーカたちは会場の屋根裏に到達した。


しばらく待っていると司会の声と音楽が聴こえてきた。パーティーの開始だと分かった2人は急いで撮影魔法を起動する。


そこからの光景は異様なものだった。


政治家たちの乱交の相手というのが慣れた女性ではなく子供だったのだ。子供の身なりを見てみると服装自体は小綺麗なものだが腕や足が何か細い。おそらく戦災孤児を人買いを介して用意したのだろう。


「ひっ……爺さんが子供のお尻を……」


「掘られているだけマシだな。てかあの爺の乳首でかすぎだろ」


吐きそうになるアルベエをシーカはそっと制する。


「こんなおぞましいことよく平気で……」


「まだこのパーティーはマシなほうだぜ。敗戦時のは目も当てられないほどひどい扱いだったからな」


シーカは2つの瞳を瞬きもせず瞳孔を開かせながらアルベエを脅かすように小声で言った。


「こういうネタはな、いろんな方面で売れるしいつか日に当ててくれることもあるからいいんだよ」


シーカの異様な圧にアルベエは黙って撮影を続けた。


撮影を一通り終えると再び護衛の影に身を潜めて影を伝ってジスの元へと帰ることができた。


合流した3人は会場の屋敷から離れ、近隣の村まで逃げていった。手早く情報を交換するとアルベエが用意した逃走経路を使って屋敷を後にした。


幸い誰にも気づかれることもなく追手がこないことは幸運だった。


シーカはその足で事務所に帰るといい匂いがした。


「ただいま」


「おかえり、シーカ兄ちゃん。今日は俺がシチュー作ったんだよ」


「おかえり、今日は遅かったんだな」


「でも無事で何よりだ。早く座りな。シーカ」


家族に迎えられながらシーカは食卓へと座ったのであった。


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異形頭兄弟物語 〜異世界のただの便利屋が平和に暮らしたいだけなのに揉め事出来事に巻き込まれて大惨事です。平和に暮らしたい〜 高岡 玄三 @eyikfyk

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