冬に君を待つ

山内とほ

第1話 冬に君を待つ

 クリスマスイブの夜は、たくさんの光であふれていた。河野俊太は、目の前を通り過ぎるカップルたちを横目に、都会の街のイルミネーションをぼんやりとみていた。

待ち合わせの時間まであと20分。渋谷のハチ公前では、僕と同じように待ち合わせをしているのであろう人たちがたくさんいた。

 「ハアーー」手を口元にもってきて息を吐くと、真っ白く温かいぬくもりが手を包んだ。 

 こんなに冷えるんだったら、もっと厚着してくればよかったな……

 クローゼットの奥でほこりをかぶっていたグレーのロングコートに、中は黒のジャケット。どれも安物だがそれっぽくはみえるだろう。


 大学の先輩、菊池りりさんとデートすることになったのは、サークルの悪ノリからだった。

 「クリスマスなにする」まじめが唐突に話し出した。

 「なんだよ急に」これは雄馬。

 「だめだめ、クリスマスなんて話題にだすなよ」タクヤが続いて、答えた。

 俊太、まじめ、雄馬、タクヤの4人は、いつものようにサークル室でだべっていた。

 「いや、だってさ、クリスマス何もしないで家にいるなんて悲しいじゃん」

 「ははっ。それはまじめだけだろ」

 「ハァーーーー。なんだよ、まさか雄馬彼女いるの?」

 「そのまさかだよ」雄馬は左手を口元に持ってきて甲を見せつけてきた。もちろん、指輪なんてしてない。

 「え」これには驚いた。雄馬には今まで女性の影なんて微塵もなかった。

 「彼女…彼女…彼女…カノジョ…カノジョ…かのじょ……カノジョ……」

 「あーあー。タクヤが壊れちゃったじゃん」そう言ったまじめの目も生気を失っていた。

 「誰?」

 「学部の先輩」

 「ふーん」 確かに、大学2年生になってゼミ活動が始まったため、先輩との交流が増えたのは確かだ。それによくよく考えれば、最近の雄馬は洒落ていた。髪はワックスでセットしてあるし、服もシワのない一体感のあるものだった。

 「あのな、おまえら、彼女ってのはいいぞ」

 「彼女…彼女…彼女…カノジョ…カノジョ…かのじょ……カノジョ……」

 「ずるだ、抜け駆けしやがって、俊太もそう思うよな」

 「え…うーん。そうだね」僕は今うまく、返せただろうか。

 「だよな」まじめはしたり顔で頭を何度も上下させていた。

 「いやいや、なら、お前らも彼女作ればいいじゃん」

 雄馬のこの発言に、まじめ、タクヤは茫然としてしまった。雄馬の言っていることは至極真っ当である。別になに1つとして間違っている点はない。ただ、2人にとってその発言は特大のカウンター攻撃であり、言い返すことのできない最強の言葉だった。

 「いや、うん、そうだとおもうよ。だよな、タクヤ」まじめは小声でぼそぼそといった。

 「うん、そうだね。まじめ。雄馬はなに一つ間違ってないよね」

 まじめとタクヤを取り巻く空気がジメジメとしており、漫画のチーーンといった様相を呈していた。

 さすがにみかねたのか、雄馬が唐突にこんなことを言い始めた。そしてそれは、僕にとって地獄の入り口だった。


 「いまから、りり先輩をデートに誘ってみようよ」

 「はあーーーーーーーーーーーーーーーー」今日初めて3人の息がそろった瞬間だった。


 

 

 



 


 

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