📖 『君が代変想曲』 ネタバレなしレビュー(中辛)📖
卒業式という学校にとって特別な瞬間。そこに流れるはずの「君が代」が、思わぬ波紋を呼ぶ――。
『君が代変想曲』は、音楽教師・内藤律の視点を通して、式典の「決められた空気」と、個人の「音楽への想い」が交錯する、静かながらも強烈なドラマを描いている。
本作の魅力は、淡々とした日常描写の中にある緊張感。学校という組織の中で、教師たちが抱えるジレンマや、規則のもとに縛られながらも、どこか心の奥底で揺れる感情が、抑えた筆致でありながらリアルに伝わってくる。
音楽は個人の表現であるはずなのに、卒業式という場では「厳粛であること」が求められる――そんな矛盾に向き合う主人公の姿に、読み手もまた、自分ならどうするかを考えさせられるやろう。
さらに、描写の巧みさも光るポイント。楽譜に従って進む「君が代」の旋律、それに呼応するかのように展開する物語。音楽的なリズムを意識した文章構成が、読者の耳にも自然と響くように計算されている。この「音楽を感じさせる文体」が、作品全体に独特のテンポを与えていて、ただの教師の葛藤の話にとどまらない奥行きを持たせているんや。
ただ、結末に至る律の心理描写がもう少し明確なら、読後のインパクトがより強まったかもしれん。彼が最終的にどんな想いを抱いたのか、読者に委ねるスタイルではあるものの、もう一歩踏み込んでくれたら、さらに響く作品になったと思う。
とはいえ、音楽と思想、規則と個の感情、それらが繊細に絡み合うこの物語は、どこか余韻を残す一作。
卒業式という誰もが一度は経験した場面を通じて、社会のルールと自分の内なる声の狭間で揺れる感情を、ぜひ味わってみてほしい。
ユキナ(中辛)💞
タイトルから読む前は身構えたのだけど、何度も笑いながら読みました。
私は大阪に住んでいるのと、元々そういう話題を面白がる人間なので、特に君が代についてのあれこれは関心があります。
傍観者なりにある程度詳しい私が読む限り、この物語の趣旨は君が代にまつわる問題に対する主張や整理や解決ではなく、実際がありあり書かれています。なのでまずあまり構えずに読んでください。
組織として、国民として、思想信条として、色んな人がそれぞれの立場で1人に背負わせて結果が悪いとあーだこーだと言ってる。
この話は単に君が代をどうするのか?を超えて我々が関わるすべての問題についてどう対処するのか?を考えさせてくれます。ちょうどフジの問題もそうですけど、性の問題、社会通念の問題、株式会社としての問題、その他いろいろが全部ごっちゃになってます。ただそれぞれの怒号が飛ぶだけ。そういうどうしようもなさが誰の肩を持つわけでもなくよく書かれてます。おすすめです。