第28話: 先を照らす光
森の静寂の中、アストリアは無言で地面を見つめていた。
拳を握り締め、震えが止まらない。その表情には悔恨と苦悩が滲んでいた。
「俺の正義って、一体何だったんだよ……教えてくれよ、セラフィス……」
彼の呟きに応える声はなかった。
ただ、重い沈黙だけが漂っている。
その時、ローハンが苛立った様子でアストリアの肩を掴んだ。
「おい、アストリア!何を俯いてるんだよ!」
アストリアは驚いて顔を上げたが、彼の瞳には未だ迷いが残っている。
「俺は……自分本位になってしまった。そのせいで、セラフィスもマチルダも、みんなバラバラになっちまった……」
ローハンはため息をつき、荒々しく声を張り上げた。
「これでも、俺達のリーダーかよ!」
アストリアはその言葉に目を見開く。
「一度呪いで死にかけた俺を命をかけて救ってくれたのは誰だ?思い出してみろよ、アストリア!」
ローハンの声はまるで雷鳴のように響いた。
彼の真剣な眼差しがアストリアの心を撃つ。
「お前は、いつも誰かを助けるために剣を振るってきただろう?その正義が間違ってる事なんて、俺には思えない。」
アストリアは一瞬言葉を失ったが、ローハンの瞳の奥にある揺るぎない信頼を感じ取った。
「ローハン……」
「確かに、俺達は時に間違った選択をすることもある。でも、間違いに気づいたなら、その都度正せばいい。それが出来るのが、お前の"正義"なんじゃないのか?」
ローハンの言葉に、アストリアの中で何かが動いた。
迷いの霧が少しずつ晴れていくような感覚だった。
彼は深く息を吐き、肩の力を抜いた。
「……ありがとう、ローハン。」
アストリアの声には、再び力強さが戻っていた。
ローハンは少し笑みを浮かべて、軽く肩を叩いた。
アストリアは頷き、立ち上がった。
その瞳には決意の光が宿っていた。
「さて、セラフィスがいる所にどうやって行くか、だが・・・?」
ローハンは腕を組み、首を傾げる。
「そうだ、ネクロマンサーだ! 彼ならこの状況を何とかしてくれるかもしれない!」
アストリアはネクロマンサーの名を呼んだ。
数分の静寂の後、薄暗い霧の中から長いローブをまとった人影が現れる。
異様な雰囲気を放ちながら、彼は静かに周囲を見渡した。
「我が恩人、アストリアよ。何用かね?」
ネクロマンサーが静かに問いかける。
アストリアは一歩前に出て言葉を切り出した。
「マチルダは、今ならまだ追いつける距離にいる。だから、俺が走って跡を追う。ローハン、ネクロマンサーの魔法陣でセラフィスの元に向かってくれ。」
ネクロマンサーは少し間を置き、静かに頷いた後、視線をローハンに向けた。
「ふむ……しかし、彼はどうやらとても遠くにいるようだ。私の魔力では1回の使用が限界だ。その後、当分の間は魔法陣を再び使用することは出来なくなる。それでも構わないのか?」
その問いにアストリアは即答した。
「大丈夫だ。それでいい。」
ローハンは驚いたようにアストリアを見つめた。
「アストリア、本当にそれでいいのか?セラフィスの元に行くのはお前じゃなくていいのか?」
と彼は低い声で問いかけた。
アストリアは決意を込めた視線でローハンを見つめた。
「セラフィスにはきっと考えがあるはずだ、ローハン。お前が彼についてやってくれ。」
ローハンは驚いた表情で言い返す。
「待て、アストリア! お前が一人でマチルダを追うなんて無茶だろう!」
「分かってるさ。でも、ギルバートが言っていたことが本当なら、彼女は今、危険な状態にある。"怒の魂"に操られてるかもしれない。放っておくわけにはいかないんだ。」
アストリアの拳が震える。
彼は少し言葉を切って、静かに続けた。
「セラフィスを助けられるのはお前しかいない。それに、あいつは俺よりもずっと冷静だ。ローハン、こっちは任せてくれ。」
ローハンは迷いながらも頷いた。
「分かった。必ずセラフィスを連れ戻してくる。けど、お前も無茶するなよ。」
「分かってる。」
アストリアは力強く頷く。
ネクロマンサーが静かに手を動かすと、地面に魔法陣が浮かび上がった。
その光は薄青く、やがてローハンを包み込むように揺らめいている。
魔法陣が完全に展開される前に、ローハンは振り返り、声を張り上げた。
「アストリア、セラフィスにお前の詫びを伝えておこうか?」
アストリアは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに顔を上げて力強く答えた。
「大丈夫だ。今度セラフィスに会った時、自分の言葉で直接謝りたい。」
ローハンはその言葉に満足したように微笑み、魔法陣の中央に立った。
「アストリア、後で必ず合流しよう。無事でいてくれ!」
「おう、セラフィスのことは任せた。」
ローハンが消え、魔法陣の光が収まると、森にはアストリアだけが残された。
アストリアは深く息を吸い込み、ローハンが消えた場所を一瞬だけ見つめた後、決意を胸に抱きながらマチルダの足跡を追って森の奥へと走り出した。
『さあ、急げ、アストリアよ。』
ネクロマンサーが静かに呟く。
その声が彼の背中を押すように響いた。
アストリアの瞳には、迷いを振り払った強い光が宿っていた。
Duo in Uno (デュオ・イン・ウノ)〜2人で1人の勇者の冒険〜 とろろ @tororo249
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