第5話 パフェの一口目は冷たい

「みちのさん、テンプレ書きました!」

「私に見せるの? どう言われてもいいなら見てやってもいいけど」


「大丈夫です! 自信あります!」

「キッツいぞ~。私は」


「お願いします!」

「よし。覚悟しやがれ」


………………………………………


「ひどいね」

「どこがですか!」


「余計なこと書きすぎ! なぜ一話目から設定盛り込む!」

「設定教えないと話分からないじゃないですか」


「そんなもん分からなくていい! ド素人がてんぷら粉アレンジするな! シンプルなもの作れないのにいきなり難しい事始めないの!」


「でもですよ。世界観って書かないと伝わらないじゃないですか。世界観分からないのにどうして読んでもらえるんですか!」

「分からなくていい! そんなものは5話目以降に回せ!」


「え~~~!」


「大体だな。主人公の気持ちになってみろ。転生先で田舎の道に倒れていた時に、その世界の設定がわかるか? 経済システム? 過去からの事件? そんなもの地理や歴史の点数取れなかったお前が今ここで生きているのに何の役に立つ? 歴代総理の名前と制作なんて知らなくても生きているだろうがよ~。今の総理だれだ? アメリカの大統領は?」

「分かんないです!」


「だろう。それでもお前の人生は、お前の物語は進んでいるんだ。一話目から設定話などいらん! 物語はな、地層を作っていくような感じでいいんだ。最初砂なのか岩なのかで掘る気が変わるだろう。そうだな、食べ物縛りだったな。だったらパフェをイメージしてみろ」

「パフェですか?」


「そう、フルーツパフェだ。あれはソフトクリーム、コーンフレーク、ソース、ソフトクリーム、果物、タピオカ、ソフトクリーム、など重層に作られているだろう」

「そうですね」


「透明なガラス越しに、きれいに見えるように積み重ねられているんだ。でもな、一番上、一口目はソフトクリーム、せいぜい果物かチョコレートのソースがかかっているだけだろ」

「確かに」


「お客様は、一口目はソフトクリームを食べるんだ。それは冷たく甘いだけ。それがいい。それがいいんだよ」

「はあ」


「一口目に求められているのは、甘さと冷たさ。ネット小説で言えば、甘さはキャラの魅力。冷たさは次が読みたくなる文章のリズム感なんだ。そこに、チョコソースを添えるか、ブルーベリーソースをかけるか、ソフトを半分チョコ味にするか。そう言った些末なことで個性を出すんだよ。一口目がピリ辛コーンフレークだったらパフェじゃないだろう」

「はい」


「求めてるものを素直に差し出す。過剰なものは二話以降に回す。重層的な世界観は、後から小出しにすればいいんだ。いろいろ作っても、結局はシンプルなものが一話目には求められるんだ。それは甘さと冷たさ。それだけで満足。それ以上はド素人が手を出してはいけない。ネット小説だからな」

「でもそうじゃない人も」


「才能と経験を持つ天才か、お前は! まずは普通のレシピで作れ。食べやすくおいしいものをな。甘さだっていろいろあるだろう。甘すぎて食べられないとか、物足りないけどソースと合わせたらちょうどいいとか。甘くて冷たいの中で工夫することが山ほどあって、その中から選ばれたものは至高の甘さと冷たさを持つソフトクリームになるんだ。一見同じように見えても、味の違いは感じ取っているんだよ、お客様はな!」

「えええええ!!!!!」


「お前が馬鹿にしているのは、シンプル過ぎて誰にも作れると思っているのだろうがそんなことはないんだ。目玉焼きでも、黄身の固め方、焼き時間、片面焼くのか、両面焼くか、それとも焼きながら蓋をして蒸すのか、卵の鮮度、焼く前の温度、冷蔵庫から出したばかりか常温に戻したのか、様々な条件で味も食感も変わる。テンプレを最高の料理にできた作品が上位を取っているんだ。それを見て(簡単な料理、焼いただけでしょって)舐めて書き始めたヤツの文章は、焦げ付かせた目玉焼きのようなもの。並べたって一口食べたら捨てられるんだ」

「ひ~」


「そこに醤油とソースとケチャップとマヨネーズと味噌をゴテゴテに混ぜたソースをたんまりとかけてごらん。そのソースはお前が言う世界観な。設定ってやつな。食えるものなら食ってみやがれ」

「いやだ~!」


「そんな作品出してるんだ! 自覚しろ! ソースも醤油も別々に適量を使えば目玉焼きを違う感覚で食べることができるだろう。一気に盛り込むな。少しづつ分散させろ。一話目に入れるな!」

「はい」


「とにかく、一話目のテンプレは甘く冷たくシンプルに。キャラの魅力と文章のリズム感と雰囲気を伝えればそれで十分。いや、そこまで削げ落とすことが必要なんだ。雑味は排除。いいね」

「………はい」


「じゃあ書き直し。オリジナリティは書くもんじゃない。にじみ出るものよ」

「書き直します」


「じゃああといいわね。面倒だからもうこないでね」

「そんな・・・また来ます」


「はぁ。まともに書いてからにしてね」

「頑張ります!」

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書いているのに読まれない! どうしたらいいの~! みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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