第4話 てんぷら粉では同じ味しかつくれない?

「テンプレって同じ話を量産するものでしょう? ざまあとか追放とか」

「浅い! その程度の認識だから物語が深まらないんだ!」


「だってぇ。『○○、貴様とは婚約を破棄する!』とか『○○、貴様をこのパーティーから追放する!』とか名前と設定を変えただけのセリフから始まるでしょう、全部同じじゃん!」


「それはな。いいか、お前が言っているのは溶いたてんぷら粉をネタに浸した状況だ。作る時って同じ手順で行われるだろう?」

「は?」


「だから、そこに使用方法が書いてあるだろ。てんぷら粉の使い方。読んでみろ」

「冷たい水100mlにてんぷら粉カップ1(130グラム)を軽く混ぜる。具材に衣をつけ」


「そこ!」

「え?」


「具材に衣をつける時は特に何も書いてないでしょ! どんな具材でも付けるだけ。だいたい同じ工程になるよね」

「当たり前じゃん」


「だから、てんぷら粉を衣にまとわせるのとテンプレ作品の最初のセリフは同じでもいいの。衣付けているだけなんだから」

「どういうこと?!」


「具材浸して引き上げると、白くてドロドロした中見が何かシルエットでしか分からないものになるでしょ。そしてそれはとても上げる前の大切な工程。それが『衣をつける』であり『追放セリフ』なのよ!」

「?」


「いい? どんな天ぷらになるかは白い塊では分からない。そこは食べることができない状態なの。でもこれから揚げるんだってわかるし期待できるでしょう」

「確かに」


「何を具材として集めたか。海老とかぼちゃじゃ同じ天ぷらでも別物よね。天ぷらと一言で言っても数多く、無限の可能性があるの。天ぷら? 天丼? 天ぷらうどん? めんつゆで食べる? 塩? 抹茶塩とかオシャレよね。揚げ方一つにも腕の差が出るよね。とり天だって、どこの部位使う? 胸? もも? 手羽先? 手羽元? すなずりとかだと全然違うよね」

「違います!」


「そうなるといろいろな天ぷらが作られるよね。大体テンプレって最初の数話書けるためのものなの。起承転結の起がほとんど。そこから先は展開のパターンはあるけど些細な問題ね。どんな素材をどう料理するかはそれこそ千差万別。導入を読んでもらうために、つまり揚げ始める前の衣を作って纏わせるだけのものなのよ」

「そうなの?! 目からうろこが」


「だから書けない人はすぐにエタるの。数話読まれて離脱されるの。材料を集めるのに失敗したのか、切り方や下処理を間違えたか、油の温度や上げ時間を間違えたか。そもそも料理に向いていないか。数話しか書けない物書きってそんな感じだよね」

「あ~~~~。分かりみが」


「だからてんぷら粉は偉大なのよ。そこまでは正しく使えば間違えないで進めるんだから! ちゃんとレシピ見て書いてある通り動けば最低限食べられる物は作ることができるわ。具材によって味も歯ごたえも食べ応えも変わる。でもどれも天ぷらなの。勝手にオリジナリティを入れて無茶苦茶に作ったら大体食べ物ではなくなるのよね」


「でもオリジナルが」

「それは天ぷら揚げられるようになってから先のはなし。まずは基本のテンプレをていねいになぞりなさい。まともな者が作れるようになってからのアレンジならできるんじゃないの」


「・・・頑張ります」

「よろしい。じゃあもういいわよね」


「でもこのままじゃエタりそうです!」

「オリジナル言ってた者の言葉じゃねえよな。ああ~、甘えるな!」


「教えて下さい~!」

「気が向いたらな。今日は終わりだ。とっとと帰って書きやがれ!」


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