第51話 チェンとの約束④

フレア大爆発を予言し、オムニ・ジェネシスの建造に関わり、そして船長コズモに「ハルモニア」の存在を教えた男。


──教皇チェン。


人類は幾度も、彼の「予知夢」に救われてきた。


だが、その事実を知る者は少ない。今なお生きているのは、コズモと水菜、そして……確証はないが、ペンタクロン神父もまた、かつて教皇に導かれた者のひとりだろう。


予言者は生前、自ら宗教団体を立ち上げ、あえて「予言を迷信に見せかける」ことで、その真実を人々の目から隠し続けた。


数年前、彼は静かに崩御した。


──その数ヶ月前、コズモを訪ねて。


 


☆☆☆


 


面会の場に現れたチェンは、記憶にある姿よりもずっと老いていた。

しかしその瞳には、まだ光が宿っていた。


「教皇……今からでもリバースエイジングポッドに入れば、若さを取り戻せます。あなたの能力と知恵は、これからの人類に必要なものです。」


コズモの言葉に、チェンは穏やかに首を振った。


「ありがたいお申し出ですが……私は、この生を全うすることこそ、

人類への最後の奉仕だと思っております。」


「死ぬことが、奉仕だと?」

コズモの声にわずかな怒気が混じる。


「ええ。ただ“死ぬ”のではありません。……感じるのです。私が死ぬことで、新たに“覚醒”する者が現れることを。私の予知夢の力は、もう薄れています。次の厄災を防げるほどの力は、もうない。」


「覚醒する……人物?」


「はい。その者は、おそらく私以上の力を開花させ、人類の行く末を変えるでしょう。

その者があなたに接触してきた時、どうか力を貸してあげてください。その時こそ、人類の分岐点です。」


コズモは視線を落とした。

「あなたの“奇跡”をこの目で見ていなければ、信じられなかったでしょうが……」


顔を上げたコズモの目には、静かな決意が宿っていた。チェンは満足げに微笑む。


「私の時もそうでした。その者は、誰にも信じてもらえず、孤独の中で人類を救おうとするでしょう。ただ、誠実な従者を一人だけ連れて。」


「その時こそ、話を聞けというのですね。」


「はい。もう私に見えるのはそこまでです。その先は、あなたに託します。」


「……あなたは、あとどれほど……?」


「ふふ……もう長くはありません。数ヶ月、でしょう。」


沈黙と共に重い時間が流れる。

チェンが口を開く。


「どうか同情なさらぬよう。私は愛する者たちに囲まれ、愛を返し、満ち足りた人生を生きました。何ひとつ悔いはありません。」


コズモは、ただ静かにうなずいた。チェンの微笑は、どこか安らかだった。


「それから──水菜さんを、よろしくお願いします。彼女にも、新しい“予言者”の話はしています。彼女は、私にとっても……特別な方です。」


「……AIのミズナ、のことか?」


「いえ、違います。……ふふ、いずれわかるでしょう。」


そう言い残し、チェンはオムニ・ジェネシスの船首を後にし、船の最後尾の静かな居城へと帰っていった。


 


☆☆☆


 


「“あの男の言ったとおり”……だと?」

ウールが低く呟く。


コズモは立ち上がり、皆を見渡した。

「ここからは、私が話そう。」


全員の視線が船長に集まる。


コズモは、チェンとの出会い、予言、そして“新たなる預言者”の存在──レイナーについて語った。


最初は誰もが半信半疑だった。だが話が終わる頃には船室は息を呑むほどの静寂に包まれていた。


最も驚いていたのは、レイナー本人だった。


「神父……あんたが言ってた俺が“チェン教皇様の後継だ”って……本当だったのかよ!」


ペンタクロンは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。


「まさか本人が一番疑っていたとはね。」

水菜は呆れたように額に手を当てる。


「ほんと、信じる順番、逆でしょうが。」


レイナーは頭をかき、苦笑いを返すしかなかった。


 


このすぐ後に、正式に“新しき教皇”となったレイナーを中心に、

オムニ・ジェネシスは人類に迫る新たな敵への“戦闘準備”を開始する。



第52話「戦闘準備①」へ続く。

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オムニ・ジェネシス 第二部 海藻ネオ @NoriWakame

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