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雪が警戒しないところを見ると親じゃないんだろう。が、雇われの可能性もある。
大柄な男だ。一九〇はある。十二月の終わりだってのに半袖シャツと淡いジーンズ。浅黒い肌、隆々とした胸筋と上腕筋。ざっくり切られた短髪に感情ののらない
それから、野犬の眼光。
『ワルイオトナ』
アパートのまわりをうろつくデカい野犬の、引き締まった身体に不穏な攻撃性を隠した、それとおなじ…オレとおなじ。
若干十七年の経験が警鐘を鳴らす。全身の血液が湧き立ち身体が臨戦体制に入る。
古い国道をバウンドしながら爆走するワゴンのなかでなんとか体勢をたてなおす。タイミングを測る。
目のまえに交差点とその先にトンネルと急カーブ。速度とハンドルの形状、それから雪の位置を確認。
カーブを抜けたら…、
黄色信号をギリギリで通過しそのままのスピードで大きくカーブを通過するワゴンに雪は大興奮だ。きっと遊園地にでも連れてきてもらったと思っているに違いない。にぃちゃんとしてはそれがせめてもの救いだ。そのままこっちは見ないでいてくれよ? そっと後ろポケットに手を添える。
岩盤をくり抜いただけのトンネルを抜け直線に入る。
抜けたっ
ナイフを引き抜く。
ハンドルを引き継ぐ体勢をつくりながら、
「なぁアンタ、だれに頼まれたよ」
サイドブレーキにのり上げ間合いを詰める。いまさらオレの存在に気がついた、みたいに一瞬、男がオレに視線を向ける。
見かけ倒しだったか?
一瞬見せたその隙に、その目へナイフを滑らせる。
ガッ
滑らせたはずだったのに、
え、
そのナイフはあっさり、隙だと思ってじつは隙じゃなかったその
瞬時に引き抜こうとするけどびくともしない。ナイフの柄を伝って血が滴る。
こいつっ、受けやがったっ
大きな衝撃に男を見上げるけど、男は相変わらずなんの感情もない顔ですでに運転に集中している。こっちの存在ももう忘れちまったみたいだ。きゃいきゃいはしゃぐ雪をたまに左膝をゆらしてあやしている。
親父にナイフの扱いを教えられたのは七つのときだ。十には相手を脅せる程度になり、十二になる頃には横浜川崎界隈でオレが操るナイフから生還できるニンゲンはいなくなっていた。
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