第4話 虫


虫が多すぎる。


父の部屋にいた男はあまりのカブトムシの多さに驚く。


昔から昆虫が好きだった僕を驚かせるために時折、外国産の大きな虫を買ってきてくれたことはあったが、さすがに壁一面の虫かごに無数の数が大量に這いつくばっていると気持ちが悪い。


天井を見上げると、棚の上に水槽の入っていたケースがあることに気づく。


よく見るとプラスチック段ボールのような素材の枠の中に、なにかが動いているのが見えた。


際立つほど赤くて、湿ってて、一定の動きに沿ってポンプが動いている。その中心部分の悍ましい臓物が中にある。


僕は部屋を飛び出ようとするも、鍵がかかっていて開かない。


「なにこの虫、なんかあるけどちょっと。」



リビングに出ると窓から見える空が赤かった。


テーブルの上には誰かが食べたままその後2、3日放置してあるような食べ粕の乗った皿が3枚。


誰かいる。



ショッピングモールに出ると人だかりができていた。

群衆がどよめいている。


群衆は記憶を確かに、階段のほうへ駆け出す。


「お前が殺したんだろ。」


群衆の中から知りもしない他人が僕を指差して脅す。


どよめいていた虫はよく見ると節足動物のような顔面をしているものばかりで、口の周りにはかつて脚だった器官が薄く伸びてケタケタと動きっぱなしのまま。


他人という昆虫の大群は無責任に地を汚しながら外へ外へと階段を上がろうと群がる。


他人は、さらに僕を追いかけて喰いかかる。


階段を上がれないと死ぬ。


階段が塞がって、よく見るとガラス製のような壁が、越えられない坂となって他人をどんどん振り落として他人が他人を上から潰していくのが見える。



誰が殺したんだろう。


「お前だろうが。お前が僕を殺したんだろう。」


靴を脱いでそのまま殴ると他人は赤い吐物で僕の顔面を穢した。


吐物は伝染するもので、舞い上がって他人へと感染して次々と収斂する。


傀儡の屈辱は連鎖を増して耐え難いものへと変貌し、僕はその虫から逃げた。



ガラスの体内で今も動いている。

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人界悪夢短編総集 ひろ @00344012

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