古道具たちは、時代を生きた持ち主のことを語る

パリの蚤の市に並べられた、たくさんの古道具。その中から、
イーゼル。
コーヒーミル。
書斎机。
フランス人形。
懐中時計。
が、それぞれの思い出を語ります。
五つのエピソードそれぞれに味わいがあり、まるで蚤の市の中からお気に入りのものを見つけるかのような楽しさです。

オブジェたちが語る思い出は、いいものばかりではありません。長く生きるということは、暗い時代や、別れの寂しさや、人間の醜さを知ることでもあります。
もしこれが人間だったら、長生きしなくてもいいと絶望するかもしれません。
でも、現代は「物」の消費サイクルが速く、スマホも家具もおもちゃも、百年を耐えうる仕様にはなっていません。
お手軽に作られた物たちは、古道具たちのような思い出を語れないかと思うと、寂しいですね。
長く使える物だからこそ、持ち主の死を見届けることができ、新しい持ち主に出会い、時代の変化を感じ、思い出に生きながらも前に進む意志を持てる。
どんな物であれ大切に扱っていきたいものです。

寂しさ。喜び。皮肉。強さ。笑い。涙。達観。
オムニバス形式だからこそ味わえる感情豊かな読後感を、ぜひお楽しみください。

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