2章 芸能界デビュー編

第7話 美容室へ

【2章開始】


 芸能界デビューが決まった数日後の日曜日。

 俺は紫乃と一緒に美容室を目指していた。


 ちなみに『クロ』として芸能界デビューを果たしたが、髪を下ろした俺が同一人物とは誰も気づかず、普段通りの大学生活を送った。


「今日はイチオシの美容師にお願いしたよ!」

「そりゃ楽しみだ」


 正直、髪を切ったことでどんな顔になるかは想像もつかないため、紫乃のイチオシ美容師に全て任せる予定だ。


「うんうん!じゃあ張り切って美容室へレッツゴー!」


 そんな会話をしながら美容室を目指す。

 そして1軒の美容室に到着した俺たちは“カランカラン”と音を立てながらドアを開け、店に入る。


「あ、紫乃ちゃん!久しぶりね!」


 すると20代後半くらいの綺麗な女性がレジ打ちをしながら返答した。


「ちょっと待ってね」


 と言って対応中の女性客にお金を渡し、女性客を見送る。

 そして店内には俺たち3人だけとなる。


「お久しぶりです!店長!」

「紫乃ちゃんは相変わらず可愛いね!あ、またヘアモデルをお願いしたいんだけどいいかな?」

「店長が希望する髪型にもよりますが私でよければ!」

「ありがと〜!」


 簡単に紫乃と話をした店長が俺の方を向く。


「それで今日はどうした?男の人と一緒だけど……」

「あ、今日は私のお兄ちゃんの髪を切ってもらいたくて店に来たんです!」

「初めまして。兄の黒羽と言います。よろしくお願いします」


 俺は軽く頭を下げる。


「紫乃さんのお兄さんね。分かったわ。私に任せてちょうだい!」


 頼もしい言葉が聞ける。


「じゃあ、さっそく始めるよ。この椅子に座って」


 店長から鏡の前にある椅子に誘導される。

 紫乃は入口付近にある椅子に座って待機するようだ。


「黒羽くん髪が伸びまくってるね。なんでここまで伸ばしてたの?」

「えーっと……俺って目つき悪くて、自分の顔に自信がなかったんです。だから顔を隠すように髪の毛を伸ばしてたんですよ」

「ダメよ。髪が伸びすぎてる男子は不潔に見られるから短く整えないと」

「す、すみません」


 その通りなので返す言葉もない。


「黒羽くん。希望の髪型とかある?」

「そうですね。前が見えやすいようにしていただければ、あとはお任せします」

「おっけー!とりあえずバッサリ切ってくよ!整えるのはその後ね!」


 とのことで“ザクザクっ!”と俺の髪を切る店長。


「それじゃあ前髪も切るねー」


 俺は目をつぶって前髪を切ってもらう。

 最初は軽快に切っていく店長だったが、徐々にスピードが落ちていく。


 そして完全にスピードが止まったと思ったら…


「ク、クロ様ー!?」


 突然、大声を出して驚きの顔をする。


「あ、やっと気づいたんだー」


 紫乃が『読者モデル』Styleスタイルを持って現れる。

 この『読モ』は店内に置かれていたため、俺のことを知っていたことは明白。


「クロ様って私のお兄ちゃんなんだー」

「そ、それをはやく言ってよ!」

「店長の驚く反応が見たくて!もしかして店長もお兄ちゃんのファンですか?」

「大ファンだよ!一目惚れして即購入したからね!」

「そっ、そうなんですね」


 俺のファンを公言してくれた人に初めて出会い、すごく嬉しい気持ちとなる。


「ありがとうございます、店長さん。とても嬉しいです」

「はうっ!」


 俺の笑顔を見た店長が心臓部を押さえてうずくまる。


「て、店長?」

「だ、大丈夫……ちょっと刺激が強すぎただけだから……」

「そ、そうですか……」


 全然大丈夫そうに見えないが、本人がそう言うのなら大丈夫なのだろう。

 何度か「すーはーっ!」と深呼吸しながら落ち着きを取り戻した店長が立ち上がりカットを再開する。


「カットの内容は私にお任せとのことだったけど本当に希望はないの?」

「はい。前髪だけしっかり切っていただければ後はお任せします」

「分かりましたっ!」


(こんな簡単なお願いで大丈夫かな?)


 そう思っていたが…


「両サイドはブロックで前髪を上げる形にした方がいいのか?いやいや……」


 等々、どのような髪型が似合うのかブツブツ呟く。


「よし!では切りますね!」


 俺の髪型を決めたようで迷いなく髪の毛を切る。

 俺はその手際の良さに感嘆する。


(おぉ、紫乃がオススメするだけあるぞ。凄く手際が良い。きっと頭の中で完成図みたいなのが出来上がってるんだろうな)


 そんなことを思いつつ店長の手際の良さに見惚れる。

 そして数十分後。


「出来ました!」


 カットが終わり、店長から説明を受ける。


「前髪はご希望通り短めにして、両サイドにはブロックを入てます。お任せとのことでしたので、爽やかなイケメンに仕上げてみました。いかがでしょうか?」

「そうですね。すごくいいと思います」

「ありがとうございます!これで私の人生に悔いは……グハッ!」


 再び倒れる店長。

 しかも今度は鼻血まで出している。


「だ、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫……クロ様を直視しすぎただけだか……ら」


 そこまで言って力尽きる店長。


「あちゃー。お兄ちゃん、やり過ぎ」

「ご、ごめん?」


 俺のもとに来た紫乃から注意を受け、とりあえず謝っておく。


「でも店長の反応は理解できるよ。お兄ちゃん、髪切ってイケメン度が上がったからね。私は普段から見慣れてるから大丈夫だけど、絶対初見だったら倒れてたね。カッコ良すぎだよ」


 そう言う紫乃の頬は若干赤くなっており、本心で言ってるようだ。


「ありがとう、紫乃。似合ってるか不安だったから安心したよ」


 俺は紫乃の言葉に胸を撫で下ろしつつ店長を見る。


「とりあえずベンチに連れていくか」

「だね。あ、私はティッシュを取ってくるよ」


 その後、俺たちは店長の介抱に励んだ。

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