第3話 『読者モデル』Styleの撮影

 俺は歩きながら神里さんに自己紹介をする。


「赤星黒羽です。隣にいるのは妹の赤星紫乃です」

「黒羽さんと紫乃さんですね!今日はよろしくお願いします!」


 簡単に自己紹介を終えた俺たちは雑談をしながら移動する。


「神里さんはお兄ちゃんと話しても見惚れたりしませんね。私は見慣れてるので大丈夫ですが、初対面の人がお兄ちゃんの素顔を見ると顔を真っ赤にして数分くらい動けなくなるんですよ」

「紫乃、俺の顔を見て見惚れるってことはないぞ。あれは多分、恐怖のあまり動けなくなってるパターンだ」


 家の中では時折髪を上げて過ごしており、その姿を紫乃の友達に見られた時は気絶、もしくは固まって動かなくなる。

 きっと俺の顔を見て恐怖のあまり思考が停止したのだろう。


「素顔を見た人のほとんどが気絶してたら恐怖で気絶って思うのも仕方ない気はするけど……もうちょっと自己評価が高くてもいいんだけどなぁ」


 そんな呟きが聞こえた後、俺の言葉を無視した紫乃が神里さんに問いかける。


「神里さんはお兄ちゃんを見た時、どうなりましたか?」

「そうですね。私も気絶一歩手前でしたね。危うく心停止するかと思いました」

「あ、それ私の友達も言ってました!」

「気を失わず今も会話できてることが奇跡ですね」

「………」


 どうやら俺の顔はお化けレベルに怖いらしい。


 そんな雑談をしながら3人で歩くと、1つの建物に到着する。


「着きました!さぁ、入りましょう!」


 とのことで、俺たちは神里さんに連れられて一つの建物に入る。


「ここは『読者モデル』や、その他雑誌の撮影を行う専用の建物となっております」


 そう言われて辺りを見渡す。

 確かに、撮影に使うであろう道具がチラホラと見えた。


「ここで撮影を行います」


 神里さんが扉を開ける。

 そこには大きな照明やカメラなど、撮影に必要な道具がたくさん置かれていた。


「おー!すごいよ!お兄ちゃん!」


 初めて見る道具たちに紫乃が声を上げ、キョロキョロし始める。

 俺も紫乃と同じようにキョロキョロと見渡しているので紫乃の行動を馬鹿にできない。

 幸い、スタッフたちはバタバタと忙しなく動き回っているため、俺たちが入室したことに気づいていない。


 俺たちが周囲の機器に興味を示していると、神里さんと一緒に1人の女性が俺の前に来た。

 長い黒髪を腰まで伸ばした30歳くらいの綺麗な女性で、キリッとした目つきが特徴的な美女だ。


「君が神里が連れて来た黒羽くんだな」

「あ、はい!」


 そう言って俺を見る。


「よし、合格だ」

「ありがとうございます!」


 女性の言葉に神里さんがものすごく喜んでいる。


「あの、こちらの方は?」

「あぁ、すまん。挨拶が遅れた。私は芸能プロダクション『ヒマワリ』の代表取締役社長、山野明奈やまのあきなだ。今日は急な代役をありがとう」


 そう言って右手を俺の前に出してきたため、俺は慌てて握手をする。


「君は黒羽くんの妹さんと聞いている。紫乃さんも今日は黒羽くんを貸してくれてありがとう」

「いえいえ!良い写真を撮ってくださいね!」

「あぁ。さっそくだが撮影に移るぞ。神里からは1枚だけと言われてるから、1枚だけ撮らせてもらう。そこで少し待っててくれ」

「分かりました」


 そう言って山野社長は他のスタッフのもとへと向かう。


「すみません、社長の言葉遣いに慣れないかとは思いますが……」

「いえ。社長なので俺は気にしませんよ」

「それなら良かったです!」


 そんな話をしていると山野社長から声がかかる。


「黒羽くん。この椅子に座ってくれ」

「わかりました。じゃあ行ってくるよ」

「うんっ!頑張ってね!」


 俺は紫乃に見送られて指示された椅子に座る。


 そして指示されたポーズで10枚ほど撮られると…


「よし、これでいこう」


 山野社長からOKが出たので「ありがとうございました」と言って立ち上がる。


「とても良かったぞ。いい写真が撮れた」

「そう言ってもらえると安心ですが……本当に俺で良かったのですか?」


 代役とはいえ俺で良かったのか不安になり山野社長に問いかける。


「あぁ、問題ない。だって周り見てみろよ」

「………?」


 そう言われて俺は周りを見てみる。


「黒羽くんを見てここにいる女性スタッフ全員が見惚れてるからな。しかも黒羽くんを直視しすぎて倒れたやつまでいる。ちなみにあそこで寝転がってる奴は鼻血の出し過ぎが原因だ」

「今すぐ介抱した方がいいと思います!」


 倒れてる人を呑気に紹介してる場合ではないと思う。


「そういうわけで黒羽くんに代役をお願いして良かったと思ってる」

「わ、分かりました」


 社長がそう言うなら俺は何も言えないので頭を下げて紫乃のもとへ向かう。


「お兄ちゃん!めっちゃ良かったよ!」

「ありがとう。乗り気では無かったけど良い経験ができたよ」


 たくさんのカメラに囲まれて撮影することは滅多にないため、貴重な体験ができた。

 そんな会話をしていると神里さんから声をかけられる。


「もう少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。なんでしょうか?」

「完成した『読者モデル』Styleスタイルを家まで発送させていただきますので、記入していただきたい書類がありまして……」


 俺は神里さんが持ってきた書類に住所や連絡先を記入する。


「ありがとうございます。発売日は12/1となりますので、その日までにはご自宅に郵送させていただきます。今日はお忙しい中、代役を引き受けていただき、ありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそありがとうございました」


 俺は神里さんに頭を下げ、山野社長に礼を言ってから紫乃と一緒に家に帰った。





 撮影日から1ヶ月後の12月1日。

 大学から帰ると、俺宛に一冊の雑誌が届いていた。


(お、Styleが完成したんだな)

 

 俺は送り主から判断して開封する。

 そして、その表紙を見て固まる。


(んぁ?なんか見たことある奴が怪盗キングのコスプレをして表紙を飾ってるぞ?)


 俺は見間違いかと思い、何度も確認する。


「………え?なんで俺が『読者モデル』の表紙を飾ってるんだ?」


 しばらくの間、俺は表紙を見ながら固まった。

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