第16話 『モリタの秘境巡り』の撮影 4
撮影が再開する。
渋滞でロケバスの進みは遅いが俺とモリタさんのトークで場を繋ぎ、到着時間が遅くなったこと以外は問題なく目的地である千条の滝周辺まで辿り着く。
「ここからは徒歩で目指すよ。聞けば歩いて10分程度で着くらしいからね」
「分かりました!」
とのことでロケバスから降りて俺たちは千条の滝を目指して歩きだす。
「千条の滝に辿り着くにはきつい坂道を歩かないといけないからね。今日のために少し運動したんだ。そういえばクロくんの身体は引き締まってるね」
「そうですか?」
「あぁ。女性陣がメロメロになるくらい引き締まってるよ。何かトレーニングとかしてるのかい?」
「そうですね。昔から筋トレは毎日欠かさずやってます。それのおかげかもしれませんね」
小学生の頃は父さんみたいになるため毎日のように身体を鍛えていた。
その習慣が抜けず、芸能界を諦めてからも欠かさずやっていた。
「なら俺が歩けなくなったらおぶってもらおうかな」
「ははっ!」と言いながら笑うモリタさんと共に向かう。
すると…
「えっ!クロ様!?」
「待って!隣にいるのってモリタさんでしょ!?」
観光目的だと思われる女性2人が俺たちに注目する。
カメラがあるため話しかけては来ないが、人との交流も番組の醍醐味なのでモリタさんが話しかけに行く。
「こんにちは。今日は観光ですか?」
「はいっ!今日は千条の滝に来ました!」
「今はその帰りです!」
「俺たちも千条の滝を目指してます。千条の滝はどんなところでしたか?」
その会話に俺も混ざり、話を広げていく。
「すっごく良かったです!」
「行くまでは大変でしたが、行って良かったと思いました!」
本気で言っているようで、女性2人からは後悔の念は感じられない。
その後も千条の滝関連の話で盛り上がった頃、女性2人が気になる発言をした。
「さっきまでSNSでクロ様を見てました!クロ様は顔だけでなく性格もイケメンだって話題になってますよ!」
「……?ありがとうございます?」
「いえいえ!これからも頑張ってくださいね!」
なぜ唐突に性格面を褒められたかは分からないが、芸能界デビューしてから顔以外で褒められたことは初めてのこと。
(良いところが無いと思った俺を褒めてくれる人はいるんだな)
そう思い、女性2人からの声援を力に変えようと思う。
その後、女性2人と別れ、俺たちは千条の滝に向けて歩き出す。
そして10分後、無事に到着する。
「はぁはぁ。思ったよりキツかったね。やっぱり歳には勝てないか。でもいい眺めだ」
「そうですね。ここまで頑張って歩いた甲斐がありますよ」
モリタさんの発言に同意しつつ俺は滝を眺める。
千条の滝という名のとおり至る所から滝が流れ出ており、時間を忘れて眺めることができるくらい神秘的な場所だ。
周りには観光客と思われる方が数人ほどおり、皆んな楽しそうに眺めている。
「ここに来たのは初めてだけど良いところだね」
「はい。また来てみたいです」
そんな会話をしながらモリタさんと千条の滝を満喫した。
千条の滝を後にして俺たちはロケバスを停めてある場所まで歩く。
帰りは来た道とは別のルートで歩いているため、俺は気になる店を見つけた。
「お、どら焼きを売ってますね」
「ホントだね」
どら焼きのイラストが描かれたのぼりが立てられており、俺は吸い寄せられるように店を見る。
「気になるかい?」
「そ、そうですね。俺は和菓子が大好きなので」
どら焼き以外にもようかんなどの和菓子が販売されており、和菓子好きにはたまらない店となっていた。
「入ってみようか」
「え、いいんですか?」
「もちろん。これもこの番組の醍醐味だからね」
そう言ってモリタさんが「ごめんください」と言って店の中に入る。
「いらっしゃい……ってモリタさんじゃないか!」
品出しをしていた優しそうなお爺さんが驚きながら出迎えてくれる。
「今日はどうしたんだい?」
「今、『モリタの秘境巡り』という番組の撮影中で」
「おぉ!その番組は婆さんといつも見てるぞ!おーい、婆さーん!モリタさんが来たぞ!」
店の奥に聞こえるよう声を出すと、優しそうなお婆さんか現れた。
「モリタさんが来たって?」
「あぁ!しかも『モリタの秘境巡り』って番組だ!」
そう言ってモリタさんを紹介するとお婆さんが驚く。
「本当だね。いつも楽しく見ておりますよ」
「ありがとうございます」
モリタさんが頭を下げて感謝を告げる。
その様子を見たお爺さんが俺の方を見る。
「コチラのイケメンは初めて見るな」
「あ、はい。モデルのクロと申します」
公の場に出たのは『読者モデル』
そのため俺は簡単に自己紹介を行う。
「あー!孫娘が言ってたクロ様ってアンタのことか!どれくらいイケメンか気になってたが、こんなイケメンなら孫娘が虜になるのも仕方ねぇな」
「そうですね。孫娘が大ファンになるのも納得の容姿です」
孫娘のおかげで俺のことは認知していたようで、自己紹介を行うだけで俺のことを理解してくれた。
「今日は千条の滝に行ってきたのか?」
「はい。番組の収録で千条の滝を訪れました。良いところですね」
「だろ?でも道中がキツくて観光客は多くないんだよ」
その言葉通り、休日にもかかわらず千条の滝を訪れた観光客は俺たち含めて10組程度しか見かけなかった。
「昔は観光客が多くて賑わってたから、もう少し賑やかになってほしいところだ」
お婆さんもお爺さんの発言に頷く。
その言葉を聞き、俺は決意する。
「俺が宣伝します。千条の滝の素晴らしさをしっかりと宣伝してみせます。もう一度訪れたいと思えるほど素晴らしい場所でしたから」
「僕もクロくんと同じ気持ちです。番組やSNSで千条の滝の良さを広めて見せます」
俺たちの力強い言葉に2人は笑みを浮かべる。
「頼んだよ」
「はいっ!」
俺はお爺さんの言葉に力強く答えた。
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