第17話 『モリタの秘境巡り』の撮影 5
その後、この店を訪れた経緯を話し、撮影許可を得る。
「オススメの和菓子はありますか?」
「そうだな。全てオススメだがやはり1番はどら焼きだな」
そう言ってお爺さんがどら焼きを持ってくる。
「おぉー!美味しそうです!」
「生地やあんこにこだわった一品だ」
「1ついただきます!」
「僕も1つお願いします」
「はいよっ!300円だ!」
俺は会計を済ませ、紙に包んだ状態のどら焼きを受け取る。
そしてその場でパクっと食べる。
「んーっ!美味しいっ!」
「そうだろ?俺の婆さんが丹精込めて作ったどら焼きだからな」
俺の言葉に嬉しそうなお爺さんとお婆さん。
「とても美味しいですね。僕も気に入りました」
「お、モリタさんもか!こりゃ嬉しいぜ!」
俺が一口食べている間に会計を済ませたモリタさんも一口食べており、どら焼きの感想を述べる。
「どら焼きのお持ち帰りとかできますか?」
「あぁ、問題ないぞ。何個持って帰る?」
「そうですね……5個お願いします」
「ちょっと待ってろ」
そう言ってお爺さんが箱を用意してどら焼きを詰める。
その間、俺は1500円をトレイに乗せる。
「はい、どら焼き5個」
「ありがとうございます!」
「僕もお持ち帰りをお願いします。個数は……30個で」
「30個!今から作らないと準備できないがそれでもいいか?」
「問題ありませんよ」
「分かった!」
とのことで裏でお爺さんとお婆さんが協力してどら焼きを作り出す。
その様子を眺めつつ俺は呟く。
「この光景を無くしたくはないですね」
「だね。そのためには千条の滝の魅力をしっかりと伝えないとね」
「はい」
そんな会話をしながらどら焼き完成を待った。
和菓子屋を後にして俺たちはロケバスに到着。
そのまま撮影を開始した公園まで移動し、番組終了の挨拶をする。
「今日は千条の滝を訪れました。とても良いところでしたね」
「そうですね。何度も言ってますが、また行きたいと思えるほど素晴らしい場所でした」
そんな感想をモリタさんと行う。
そしてモリタさんが締めの言葉をカメラに向けて言う。
こうして、『モリタの秘境巡り』の収録が終了した。
「ありがとうございました!」
俺は他のスタッフたちへ挨拶を終え、最後にモリタさんと江本さんへ挨拶をする。
「初めての撮影で不安でしたがおふたりのサポートのおかげで緊張せずに撮影ができました。ありがとうございました」
再び頭を下げて礼を言う。
「とても良い収録だったよ。本当に初めての収録か疑いたくなるくらい文句なしだったね」
「モリタさんの言う通りだ。来週もよろしく頼むぞ」
「はいっ!」
俺が元気よく答えるとモリタさんが笑みを浮かべ、「また来週ね、黒羽くん」と言って立ち去る。
その背中を俺は見ていると「あ、そうだ」と言って江本さんがスマホを取り出す。
「これ見ろよ、クロくん」
「………?」
そう言われ、俺は江本さんの持つスマホを覗き込む。
そこには今現在のトレンドが載っており…
「……え、なんで俺の名前がトレンド1位になってるんですか?」
何故か俺の名前が1位だった。
「ははっ、ビックリだろ?」
「ビックリすぎて言葉を失ってます」
何故だか分からないが俺の名前が1位となっており、2位にモリタさんの名前があった。
「何があったんですか?」
「あぁ。これはクロくんが渋滞中にとった行動がSNSで絶賛されてるからだ」
そう言ってとある動画を見せてくれる。
そこには…
『陣痛がひどい妊婦さんが渋滞に引っ掛かってしまい身動きが取れなくなってます!車の通り道を確保するため、ご協力お願いしますっ!』
そう言って頭を下げる俺が映し出されていた。
「これがSNSでバズってるんだ。それとこの投稿も話題になってて」
江本さんが今度はとある方の投稿を見せてくれる。
そこには…
『クロ様、モリタさんに助けられた妊婦の夫です。おふたりのおかけで無事出産できました。母子ともに健康です。本当にありがとうございました』
とのコメントと一枚の写真が添付されており、俺が助けた男性と出産を終えたばかりの奥さん、奥さんの隣でグッスリ眠っている赤ちゃんが載っていた。
「無事、産まれたようで安心しました」
男性のその後が気になっていたので、俺はコメントと写真を見て安堵する。
「……あれ?モリタさんが返信してますね」
「あぁ。モリタさんが返信したことで、この男性の投稿とSNSで出回っている動画が真実だと皆んなが理解したんだ」
男性の投稿にモリタさんが…
『無事産まれたようで良かったです。大切に育ててくださいね』
『ありがとうございます。ちなみに元気な女の子が産まれました。クロ様が声をかけてくださらなければ元気に産まれることはなかったので、最初に声をかけてくださったクロ様には頭が上がりません』
『貴方に声をかけたのはクロくんの発案です。「困っているようなら手助けをしたいので」と言ってね』
『そのように番組スタッフの方も仰ってました。なのでクロ様のような立派な女の子になれるよう名前に『黒』という文字を使いました』
とのやり取りをしており、このコメントへの反響がすごい。
「このコメントによってクロくんの良さを知った人が増えたぞ」
俺は『読者モデル』
しかし困っていた男性を手助けした俺を絶賛する声が続出し、俺のことを『顔良し、性格良しの完璧イケメン』と周知したようだ。
「な、なんか美化されすぎだと思います。俺は当たり前のことをしただけですよ」
「それができない人だっている。その証拠に頭を下げてた男性に声をかけたのはクロくんだけだ。周囲の人は手助けしてなかっただろ?」
「そ、そうですね」
「だから俺はクロくんが『性格良し』って褒められるのは間違ってないと思う。もっと胸を張っていいことだ」
「江本さん……」
その言葉に胸が熱くなるのを感じる。
そして俺は自分のことが少し好きになれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます