第13話 『モリタの秘境巡り』の撮影 1

 小町との仕事が終わった翌日。

 モリタさんとの撮影日を迎える。


「今日は大人気番組、『モリタの秘境巡り』の撮影ですね」

「そうですね。小さい頃から見ていた番組に出演できることが夢みたいです」


 この番組は10年以上続く長寿番組。

 そんな番組に出演できることを嬉しく思う。

 ちなみに今からの撮影は神奈川県で行うため、今は神里さんの車で神奈川県に向かっている。


「そういえばデビューしたばかりの俺に旅番組のオファーをするって番組側は勇気あることをしますね」


 この番組は目的地である秘境を目指しつつ地域の方々と触れ合うことが特徴的な番組だ。

 台本など一切ない番組にも関わらずテレビ経験のない俺にオファーするのは博打と言っても良い。

 そのため不思議に思い、オファーしてきた理由を聞く。


「それは社長も言ってました。そのためオファーを依頼した番組側に聞いたみたいです。すると、プロデューサーである江本政則さんとモリタさんが依頼したみたいですよ」

「江本さんとモリタさんが!?」


 江本さんとモリタさんは父さんが芸能界で活躍してた頃に面識があり、何度も話したことがある。

 江本さんは当時プロデューサーではなくディレクターだったので、昇格してプロデューサーになったようだ。


「はい。2人とも黒羽さんのことを知っており『クロくんが失敗したら俺とモリタさんが全責任を取る』と言ってました」

「そ、そこまで言い切ったんですね」

「なのでこのオファーが実現しました」


 俺の失敗を全て背負えるほど江本さんやモリタとは交流はないがオファーが来た理由に納得し、次の疑問を問いかける。


「今回、オファーが来てすぐに撮影しますね。小町と収録したラジオならオファーが来てすぐに収録は理解できますが」

「あ、それはですね。今回の撮影は元々黒羽さんではなく別の方と行う予定だったんです」


 どうやら元々撮影を行うゲストの方が事故で入院してしまったらしく、代役を探していたようだ。

 そのタイミングで俺のデビューが発表されたため、オファーしたらしい。


「これは好機ですね。このチャンスを活かしたいと思います」

「頑張ってくださいね!」


 そんな会話をしながら収録場所へ向かった。




 撮影開始場所である公園に到着し、すぐにスタッフたちへ挨拶に向かう。


「お、来たか。クロくん」


 すると真っ先に1人の男性が話しかけてきた。


「今日はよろしくな」

「よろしくお願いします、江本さん」


 俺はプロデューサーである江本さんに挨拶をする。


「俺へのオファーが決まったのは江本さんとモリタさんのおかげだと聞いてます。今日はオファーしていただきありがとうございます」

「俺のおかげじゃないさ。キッカケは俺とモリタさんだが、他のスタッフも拒否的な人は少なかった。何よりモリタさんがクロくんとの共演を強く望んだからな」


 聞けばモリタさんが『共演したい』と言ったことで誰も反対する人がいなくなり、俺へのオファーが決まったらしい。


「モリタさんもクロくんのお父さんである白哉さんを知っている。だからその息子であるクロくんと共演したかったのかもしれない。詳しい理由は聞いてないがな」


 歌番組をはじめ、様々な番組で共演した父さんとモリタさんは良好な関係を築いており、俺も父さんの収録に同行した時はモリタさんと何度か話をしている。

 そんな会話をしていると前方からテレビで何度も見かける男性が現れた。


「おはよう、黒羽くん。そしてデビューおめでとう」

「あ、ありがとうございます!それとオファーしていただきありがとうございます!」


 今年で70歳となるモリタさんはテレビ業界では大御所となる。

 昔は緊張せず話をしていたが、今では緊張しないと話せない人物だ。


「オファーの件は気にしなくて良いよ。僕が一緒に仕事をしたいと思っただけだから」


 そう言ったモリタさんが柔らかい笑みを浮かべる。


「それにしても黒羽くん、表情が固いよ。もっとリラックスして。僕や江本さんがサポートするから」

「そうだぞ、クロくん。事前に渡した資料に目を通していれば失敗することはないから」


 番組撮影にあたり、事前に注意事項が書かれていた資料を渡されており、ひと通り目は通している。


「あ、ありがとうございます。ご迷惑をおかけすることもあるとは思いますが、今日はよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた俺は、他のスタッフのもとへ挨拶に向かう。


(今日俺が出演できたのは父さんの伝手だ。この収録で自分の魅力をモリタさんや江本さんにアピールしないと仕事が来なくなるぞ)


 そう思い、俺は“パシッ!”と頬を叩いた。




〜モリタ視点〜


「クロくん、白哉さんみたいにカッコ良くなりましたね」

「そうだね」


 黒羽くんのお父さんである白哉くんとは何度も仕事をしたことがあり、白哉くんのことは良く知っている。

 自分の魅力や能力に驕らず正義感あふれた彼は、誰にでも優しかった。

 そんな彼を僕は心の底から応援していた。

 そんなことを思い出していると、江本さんから話しかけられる。


「本当に良かったのですか?クロくんが失敗したら責任を取るとまで言いましたけど」

「それは君もでしょ」

「ははっ。そうですね」


 僕や江本さんは黒羽くんならしっかり収録できると思っている。

 何故なら白哉くんと同じ思想を持っているから。


「昔、出会った時のクロくんは白哉さんの小さい頃を見てるようでした」

「君も見たでしょ。彼がトップアイドルの萌絵ちゃんと大女優の愛華ちゃんを救ったところを」


 僕と江本さんは彼が小学生の頃、アイドル引退を検討していた萌絵ちゃんを励まし、他の子役にイジメられていた愛華ちゃんを救ったところを偶然目撃した。

 その姿を見て、デビューした時は絶対、サポートしようと思った。

 心優しくて正義感のある白哉くんのような芸能人になれると確信したから。


「来週収録する『タモトーク』ではクロくんから白哉さんの話題に触れていいと許可をいただきました。萌絵さんと愛華さんもクロくんと会うのを楽しみにしてます。2人ともクロくんのこと覚えてたみたいで」

「それは楽しみだね」


 そんな会話をしながら黒羽くんを見る。


「テレビ撮影は今日が初めてらしい。大人である僕たちがしっかりサポートしないとね」

「そうですね」


 僕の言葉に江本さんが頷いた。

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