蛇のなかの蛇

 ゴゴゴゴゴ、なんてオーラが出そうな感じで両腕を広げる蛇女。

 バックリ裂けた口からは、お決まりな蛇のスプリットタンが。


 空気は一変、子どもたちは縮こまって悲鳴を上げる。


「うわああああ!!」

「おねえさんなんとかしてぇ!!」

「なんとかってどうとか!!」

「できるでしょ!? おねえさんも蛇の化身なんでしょ!?」

「あっ、バカっ!」


『なに……?』


 蛇女の目付きが変わる。


『キサマも妾の同類だというのか……?』


 あ、ダメだわこれ。嘘だってバレたら死ぬヤツだ。

 アイツ自分語りノリノリだったもん。種族? に誇り持ってるタイプだもん。

 まぁバレなくても食われそうだけど。


 だとしても甚振いたぶり殺されそうなのはヤダ!

 なんとか穏便に……



「そうだぞ! このおねえちゃんはチョーエツシャで! スーパーコブラで! アナコンダコブラなんだぞ! 一般蛇とは違うんだぞ!!」



「ヤッ、ヤメローッ!!」


 数分まえの自分が、ことごとく墓穴となって襲い掛かる!

 なんでこうなるのよ!

 人殺したからってあんまりだ!


『ほう……妾の前で「蛇としての格が違う」とは……。この霊力を微塵も感じぬ小娘が、1,000年生きた妾に向かって……』


 ほらー! もうダメだよ! おねえさん死にそう! 今死ぬ! 食われるまえに死ぬ!


 明らか私の態度が押されているに気付いたのだろう。

 ガキどもは応援のつもりか、なんとかポジティブな要素を重ねようとする。


「そうだぞ! すごいんだぞ!」

「おねえさんは蛇なのに◯郎食ってるんだぞ!」

「他の蛇とは胃腸の強さからして違うんです!」


 そこかい!

 もっとマシなないんかい! ないわ。

 あと常連みたいに聞こえるけど、たまに付き合いで行くくらいだからな!?


 これで蛇が何をビビるんだよ。

 そもそも◯郎知らねぇだろ。


 そう思っていると、



『次郎を、食った……?』



 なんか驚いてる。


『次郎とは、あの一乗寺いちじょうじの次郎か……?』


 一乗寺? まぁ私が食べたのは一乗寺駅店だけど。大学から近いし。


「そうですけど」

『なんと!! どうやって!?』

「どうやってって。まずはこう、『天地返し』っていうの? クルッと」

『天地を返して!?』


 蛇女は大きくけ反る。

 下半身が蛇だけあって豪快。


『村の者どもから生贄を取っていた妾を! 1,000年生きたこの妾を! 苦もなく殺してこの地に埋めた、一乗寺の用心棒、怪力次郎を!?』


 かと思えば、なんか急にこっちへ背中向けて、ぶつぶつ言ってる。


『あな怖ろしや……。妾は蛇の王になったと思っておったに、まだ上回る者がいようとは……』


 なんかよく分からないけど、これ逃げるチャンスなんじゃね?

 そろ〜っとおいとましようとしたそのとき、


『待たれよっ!!』

「ひっ!」


 蛇女がすごい勢いで振り返る。

 下半身が蛇だけあって、スイングがデカい! 怖い!

 そして距離が近い! 目と鼻の先!


 いよいよ食われるかと思ったけど、



『先ほどは失礼いたしました』



「ほ?」


 意外にも、ヤツはうやうやしく頭を下げる。

 あれ? なんか行けそうな感じじゃね?


『あなたこそ蛇の王、蛇のなかの蛇。化身の頂点』

「さ、さいですかぁ。おほほほ……」

『そのあなたさまのお連れともなれば、わらべたちに手は出しますまい』


 固まっていた子どもたちの表情に、安堵の色が咲く。


「やったじゃん! おうち帰れるよ!」


 バシバシ背中を叩いてやると、


「そ、そっか!」

「やったぁ!」

「イエーイ!」


 体の緊張もほぐれたらしい。ハイタッチしてくる。



『ただし!』



「へ?」


 完全に気を抜いていたところに、鋭い声が割り込む。

 それも束の間、


「えっ? ちょちょちょっ、ちょっとぉ!?」


 蛇女が私の体に巻き付いてくる!

 身動き取れねぇ!


「逃がしてくれるんじゃなかったの!?」



『あなたさま、いえ、師匠と呼ばせてくださいませ! 師匠はぜひここに残り、私に一乗寺の次郎を破った天地返しの術を教えてくだされ!』



「は、はあああああ!!??」


 そのまま蛇女は私の体を持ち上げ、森の奥へと拉致しようとする。


「やっ、ヤダヤダ! 絶対ヤダ! 私もおうち帰る!!」

『つれないことをおっしゃいますな♡ 妾は師匠に感服いたしました♡ どうかよろしくお願いいたしますぞ♡』

「ヤメロオオオオオ!!」


 冗談じゃないやい! 今すぐ降ろせ!

 でも動けない私には、どうすることもできない!


 一縷いちるの望みをもって、子どもたちの方を見ると、



「よかったね、おねえさん! 仲間と出会えて!」

「幸せにね!」

「じゃあ僕ら、帰りますね! もう夜遅いし!」

「バイバーイ! おねえさんのこと、忘れないよ!」

「南無阿弥陀仏!」

「アーメン!」



 ほがらかに手を振ると、

 一目散に走り去っていく。



「待ってえええええ!! 助けてえええ!! 置いてかないでえええええ!!」






 みんなは禁足地に入っちゃダメだゾ♡

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入ってはいけない森 辺理可付加 @chitose1129

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