ガチ怪異現る
「「「「ぎょええええぇぇ!!??」」」」
ヤバい。
アレは明らかにおかしい。
テーマパークと画面の中以外で見ちゃいけない造形してる。
どう見てもモンスター。
『またもやかましい声を上げよってからに』
ズズズズッと怪物がこちらへ近付いてくる。
明らかに人間が接近してくるときの効果音じゃない。
「みんな走って! 逃げないと!」
こうなるともう、子どもたちと心理戦してる場合じゃない。
いち早く逃げるように促すんだけど、
「ハカセっ! しっかり!」
「立てっ!」
「あ、あ」
「ちょっとぉ!?」
腰抜かしてる!
ここに来て子どもらしく力尽きやがった!
さっきまでの冷静で知的な姿はどこ行った!
肝試しに来る以外全てが的確だった自分を思い出せ!
というか、本当はガキ一人逃げられなくなっても構わないんだ。
別に私には関係ないし、むしろ目撃者が消えてくれれば万々歳じゃん。
こちとらカレシ殺して埋めた悪逆非道の蛇女(比喩)なんだ。
今さらこのくらい。
「ほらっ! 手ぇ出して!」
と思うけれど。
人を殺した私だけれど。
それでも、恨みのない相手まで見捨てられるほどじゃないみたい。
人間、理由のある悪に堕ちても、理由のない悪になってはいけない。
そして、理由のない正義ならいくらあってもいい
と思う。
「逃げるよ!」
シャベルだかスコップだかを捨てて、ハカセをおんぶする。
こちとら男殺して埋めるくらいの体力腕力はあんだよ!
ガキ一人くらい背負って逃げれるわ!
舐めんな!
シャベルなんか残してったら、警察に証拠品として見つかるかもしれない。
でもそんなこと言ってられない。
今は目先の命を繋ごうと、一歩踏み出そうとした
のだが。
「ちょ、ちょっとぉ!?」
う、動けん!
残り2名のガキどもが、私の腰に抱き付いて動きを封じている!
エロガキだとか『死にそうなとき子孫を残したい欲求に駆られる』とかじゃない。
単純にコイツらも、腰抜かしてないだけで力尽きているんだ!
「走って! 早く逃げないとさぁ!」
蹴り飛ばさない程度に足を揺するけど、子どもたちは
「お、おねえさん、なんとかしてよ……」
力なく私の背後で縮こまる。
「なんとかって、なんともならんでしょ!」
『もうよいか?』
グダグダやっているうちに、バケモノがすぐ近くまで来ている!
ヤバい!
向こうのスピード感知らないけど、今から逃げても間に合わなさそう。
ハカセを地面に降ろして、
シャベルでいいや、シャベルで統一しよう、
せめてもの武器を拾うんだけれど。
足が震えて、逆に上半身は構えた姿勢でガッチガチに固まった。
文字どおり『蛇に睨まれた』状態。
薬局のカエル、小さいころ好きだったな……
でも8歳くらいのときに興味なくしたな……
よく見たら絶妙に不気味な顔してるって気付いちゃったんだもん……
せめてもうちょっとマシなところから始まってほしい走馬灯。
『妾の土地に足を踏み入れ、騒ぎおってからに。骨も残さず食らい尽くしてやろう』
上半身は人間じゃなかったのかよ、ていうくらい開く口に呆然としていると、
「食うってことは、あなたもアナコンダコブラなんですか……?」
「えっ」
『穴子……?』
追い詰められたハカセが、頭バグったようなことを言い出す。
『餡子……粗昆布……なんて?』
「アナコンダコブラじゃないんですか? だったら何蛇なんですか?」
んなこと今どうだっていいだろうが!
人生最後に聞くワードがアナコンダコブラとか最低だわ!
言い出したの私だけどさ!?
あまりにも無価値な、と思ったんだけれど、
『えっ、えー、人どもの言うところの、ヤマカガシであるが?』
意外と乗ってくれて、時間稼ぎにはなってる?
「えっ!? ヤマカガシってそんなに大きくなるんですか!?」
『ふふん、1,000年生きたからの』
「そんなに!?」
『人間の仙人と似たようなもんじゃ。霊力を蓄えたのよ』
なんか盛り上がってる。
身の上話と自慢話は気持ちいいもんね。
もしかして、このまま和解できるんじゃね?
「ねぇ、ハカセくんだっけ? もしかしたら大丈夫そうな感じ?」
そっと話を振ってみると、
「いえ、ヤマカガシは噛まれたら死んじゃうくらいの毒を持ってます。大丈夫じゃないです」
「おいおいおいおいおい。詳しいのね。おねえさん感心だわ」
そういう意味じゃないうえに、なんか絶望度増しちゃったよ。
「ハカセは夏休みの自由研究も蛇についてだったらからな!」
ヤンキーが自慢げに鼻をこすって笑う。
あー、それで途中判断をあの子に委ねる場面があったのね。
どうりでガキのくせに詳しいわけだよ。こういうのが将来さ◯なクンみたいになるんだよ。サインくれよ。
ていうかオマエはそんな顔する余裕があるなら走って逃げろよ。
「ま、そういうことらしいのでぇ。将来ある子どもたちと若い娘ですぅ。見逃してもらえませんかね?」
でも今の和やかな雰囲気なら、なんとかなるかもしれない!
交渉に出てみたものの、
『ダメだ』
「ダメ!!」
『わざわざ寒い中出てきたのだ。なんの土産もなしは悲しい』
「やっぱり変温動物だわ!」
『さぁ! 妾の夜食となれぃ!!』
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