蛇heavy

 うっわあああああ言っちゃったあああああ。

 何言ってんだ私いいいいい。


 大蛇の怨念話でホラースポット観光地化とか言ったけどさあああああ。

 自分がなってどうすんのよおおおおお。


 真顔保て私いいいいい。


 ていうかそもそも、完全に頭おかしい人じゃねぇか!

 別の意味で不審者だよ!

 下手な軽犯罪より通報されるわ!


 いくらガキでも、こんなので騙されるか!?


「だ、だからみんなには、ここに入ったらダメだぞ〜って」

「どうして蛇の化身がシャベル持ってるの?」

「ぐっ!」


 騙されないよねえええええ?

 お願い騙されてえええええ!


「それはね? 不法投棄って分かるかな? 悪い人が捨ててったゴミを外に出そうとね?」

「どうして蛇の化身がモッズコートにジーンズなの?」

「そりゃ、もう、あれだよ。寒いからだよ。変温動物って習った?」

「変温?」

「てか寒いなら冬眠しないの? 蛇なんでしょ?」

「わ、私は化身だぞ!? 我超越者ぞ!? 一般蛇の常識で語るな!」


 しばし私に疑いの目を向ける子どもたち。

 やるなぁ! 私がオマエらくらいの歳のころなら、若干騙されかかってるところだぞ!

 そんな進化した新人類どもは、


「どうなのハカセ? コイツ蛇だと思う?」

「うーん」


 どうやら勉強できそうな子に判断の全てをゆだねるらしい。

 くそっ、まだバカであれよ! 騙されてくれろよ! かわいげないな!

 いや、自分たちで考えるの放棄しちゃうのは歳相応だけどさ!


 運命を握る、小学生チームの賢いどころは


「うーん」

「どうなんだ?」


「蛇、だと思う」


 バカだった。やったぜ。


「蛇みたいな目してるし」

「あぁ!?」


 ただの失礼なヤツだった。


 このガキ、私に向かって禁句を!

 さっき埋めてきたヤツにも言われて気にしてんだぞ!?

 しかもソイツが狸顔と浮気してたときの絶望ったらよぉ!?


 だがまぁコイツらバカだから、ハカセのお墨付きで安全だろう。

 今回は許しておいてやろう。


 そう思って気を抜いていると、


「何蛇?」


 野球少年が余計なことを聞く。


「うーん」


 ハカセもガサツな友人が細かいとは思ってなかったらしい。


「えー? うーん……」


 ほーら困ってるよー!

 ハカセしっかりしてー! 私の潔白(潔白ではない)は君に掛かってるんだー!


「何蛇なんですか?」

「えー……」


 諦めちゃったよ。

 まぁ小学生だもんね。仕方ないよね。

 じゃなくて。


 私蛇詳しくないんだが!?

 何蛇とか知らねぇよ! せいぜい海蛇ではないんじゃねぇのってくらいだよ!


「えー、えー」

「もしかして本当は」


「コブラッ! コブラだよっ! どうだ、怖いか!!」


 追い詰められた結果、とりあえず知ってる名前が飛び出しちゃった。

 さぁどうだ、ガキども! 騙されるか!? 騙されろ!


「日本にコブラなんているんですか?」

「アレって砂漠にいるんじゃねぇの?」

「エジプトだろ?」


 クソがよ! 中途半端に頭回りやがる!


「うるせぇ! ごちゃごちゃ言ってっと食っちまうぞ!」

「コブラって人間食うの?」

「噛むとか毒あるとかは聞くけど」

「サイズ的に無理だと思うな」


 ここにきて冷静にすらなりやがってからに!


「そ、そりゃアレだよ。私は化身になるほどのスーパーコブラだから。『アナコンダ』って映画あったでしょ」

「「「知らないです」」」

「ぐっ! ジェネレーションギャップ! とにかくそういう感じなんだよ! アナコンダコブラなんだよ!」

「そんなアブラカタブラみたいな」

「だぁまぁれぇ! アブラカタメブタで食っちまうぞ!」

「コイツ蛇の化身のくせに◯郎食ってるぞ!?」

「人喰いじゃないのかよ!?」

「◯郎は人の名前だからいいんだよ!」


 もう自分でも何言ってるか分かんない。

 全部無視してさっさと帰った方がよかったんじゃないか。

 つーかこんだけ騒いでたら、ガキども騙しても近隣住人に聞こえてるんじゃないの。

 我に返りかけたそのとき、



『うるさいぞ……』



 ちょうどお叱りの声が。


「あっ、すいませっ」


 思わず振り返ると、


 そう、振り返る、

 つまり声に頭を下げると、




わらわの眠りをさまたげおって、人間どもが……!』




 そこには、髪の長い女がいた。


 上半身は死装束みたいで、

 下半身は大蛇の。

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