鬼は出ないけど蛇が出る、かも

 ヤバい。

 早速人目に付いた。

 ヤバい。


「えっと」


 ガキどもが何か言おうとしている!

 こうなったら先制パンチじゃ!



「君たち! こんな時間にこんなところで、いったい何をしているのかな!?」



「ひえっ!?」


 いや、何も先制パンチって、見られたから殺すじゃないよ?


 ただ、相手が何か言い出すまえに大声で喚いて黙らせる。

 これ女の特権。ケンカになったら理詰めで勝てない男を黙らせる必殺技。

 もちろんこの場で大声を出すのはリスクだけど、背に腹は代えられぬ!


「親御さんたち心配してるよ! 警察に通報しちゃうよ! 学校に言い付けちゃうよ!」


 ま、警察に通報されたら終わるのは私なんだがな。

 しかしガキども黙らすにはよ。

 学校ってワードが出てビクつくのはいかにも小学生って感じ。

 こんな子でも、大学生になったら教授や学生課ナメ腐るようになるんだろうなぁ。

 それはさておき。


「ま、待ってください!」

「待ってほしいか。なら待ってやろう。おねえさんそこまで鬼畜ではない」


 ホッとした表情を浮かべるのは、向かって左の小柄な眼鏡っ子。

 うむ。いかにも優等生で通っていて、先生からの評価を気にしてそうだ。


「でもその代わり、何をしてるのか話してごらん」

「おい、どうするよ」

「話して大丈夫か?」


 真ん中のヤンキーっぽいのと右の野球少年っぽいのがヒソヒソ相談する。


 正直私だって、このガキどもが何しに来たとかサッパリ興味ない。

 ただ、秘密を握りつつ『話せば分かるおねえさん』感を演出することにより!


『じゃあ今夜私がここにいたことも秘密ね♡』という展開へ持ち込むのだ!


 へっ、どうせ下の毛も生えそろってねぇボンズどもがよ。

『不思議なオトナのおねえさんと、一晩の秘密の共有』的シチュにすりゃあ!

 コロッと『はぁい♡ おねえたま♡』てなモンよぉ!


 我ながら完璧すぎる作戦に打ち震えていると。

 リーダー格だろう真ん中のヤンキーがもじもじ口を開く。


「えっと、オレらは、肝試しで森に来てて……」


 いやー、いかにも小学生だわ。今日日きょうび肝試して。

 早いうちに卒業しないと、将来カノジョに殺されて埋められっかもよ?


「ここの森は入っちゃダメだって、パパママや先生に言われなかったかな?」

「言われました……。でも!」

「冬は蛇もスズメバチもいないから大丈夫だってハカセが!」


 眼鏡っ子の肩がビクッと跳ねる。

 たしかに頭良さそうだけど、それであだ名ハカセって。

 おまえら昭和平成の児童文学かよ。


「ふーん。でもよくないよね? 暗くて足元見えないし。夜は子どもだけで出歩いたら危ないし。冬は風邪も引きやすいし」

「はい……」

「何より、蛇やハチが冬眠してるからって、何もいないとは限らないんだよ? 他の危ないのがいるかもしれないんだよ?」


「それって、おねえさんみたいな?」


「……」

「……」

「……」

「……」


 眼鏡っ子が『ヤバい!』って顔してる。

 そうだよ。ヤバいよ。

 今そこのヤンキーは、言っちゃならんことを言ったんだよ。


 だがまだだ。まだボロを出すn……



「おねえさんの方は、何しにここに来てるの?」

「どう見ても不審者……」

「違うよっ!!」

「「「ひっ!!」」」



 思わずシャベル? スコップ? を振り上げてしまった。

 これでは危険人物度が爆上がりしてしまう。


 落ち着け、落ち着け私! まだ間に合う!

 まだ取り返せる、まだ通報されない、まだ不思議なおねえさんで通せる。


「オッ、オホン! 拙者、決して怪しい人物ではござらん!」

「それ言う人初めて見た」

「でも『ル◯ン』の五◯門以外で怪しい人物じゃなかったヤツいないよな」

「あんだってぇ!? 『ル◯ン』の五◯門は怪しい人物だろうがよ! 泥棒だぞ!?」

「そういうおねえさんは何者なの?」

「ぐっ!」


 やるな小学生! 大学生をここまで追い詰めるとは!

 断じて私が小学生レベルということではない。


 それより、まさかこんなことになろうとは。

 思えば『秘密の共有』つったら、私も相応のことを知られることになるのか。


 だからって、『泥棒じゃないよ、人殺し♡』だなんて言うわけにゃいかない。


「散歩に来た通りすがり……」

「こんなところに?」

「ぐぐっ!」

「ねぇおねえさん本当は何者なの!?」

「やっぱり不審者なの!?」

「なんでシャベル持ってんの!?」


 マズい! これは大変マズい!

 特にシャベルのことはなんとか言い訳しないと!

『森でシャベル持った人に会った』なんて話になったら、絶対死体が捜索される!

 かっ、かくなるうえは……!


「ええい黙れ! 黙りおれ!」

「「「!」」」

「わっ、わっ、私はなぁ!



 この森に住む大蛇の化身であるぞ!!」

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