入ってはいけない森

辺理可付加

そこは世にも怖ろしい……

 私が通う大学の裏手には、ちょっとした森がある。

 途中小高くなっていることから、


『昔神社があった鎮守の森の名残なごりだ』


 とか、


『誰それの古墳だか塚なのだ』


 とか、


『かつて処刑場で、弔いに埋めた一本の木が広がり……』


 とか。

 なんか木よりいわれの方が生い茂っている。



 そんな、聞けば気がしないこともないような気がせんでもない森は




『蛇やスズメバチがいっぱいいて危ないから』




 という至極真っ当な理由で、地元民のあいだじゃ入ってはいけない森となっている。



 違うだろ!!


 そこは普通


『◯◯サマという怖ろしい神さまがおってな、森に踏み入った人間を……』


 とかだろ!

 せめて蛇が出るんだから


『かつてここで退治された大蛇の怨念が……』


 とかだろ!

 まったく、風情ふぜいってもんはないんですかねぇ!


 なんならチャンスだろ!

 ホラースポットとして売り出せば、今の時代観光資源になんだろうが!

 愛媛の片田舎から下宿してる小娘が言うんじゃ、余計なお世話かもしれませんがねぇ!

 それでいいのか地元民!

 商店街に目先のクリスマスイルミネーション飾ってる場合じゃねぇぞ!



 というわけで、でもないけど。

 じゃあ有効利用の手本を見せてやろう、ってわけでもないけど。


 私は今、20時くらい?

 その禁足地たる森に来て、




 死体埋めてる。




 何か問題でも?


 冬なら蛇もスズメバチもいないし平気でしょ。

 暗いしこの時間帯でも誰も見てない。

 そもそも禁足地だから人が立ち入らない。

 完璧じゃん。



 コイツが悪いんだよ?

 私というものがありながら、他の女に靡いたりするから。


 なぁにが『油画コースの芸術家肌』だよ。

 なぁにが『アトリエにいる姿がすでに絵になる』だよ。


 絵の具どころか口紅引いて、柔肌丸出しなだけだろうがよ。

 子作りの作業所はアトリエじゃなくてラブホテルってんだよ。


 許せねぇよなぁ?

 浮気しただけでも許せないのに、表現がドサンピンなのは絶許よなぁ?



 それでまだ気付いてないフリして、ヤローを誘ってやったわけよ。


『裏山で肝試ししたいな♡ それで怖くなっちゃったら、今夜は放さないでね……?』


 てな感じでよぉ。

 そしたらアイツ、小鼻フヒフヒ言わして乗ってきやがったぜ。

 散々あの女と乳繰りあったんじゃねぇのかよ。

 それでまだ私ともヤりてぇのかよ。エロボンズがよ。



 というわけで、あとはあらかじめ用意しておいたシャベル? スコップ?

 柄が長い方だよ。それで後頭部一撃。

 確実を期して二撃。気が済まなかったので三撃。

 そのまま埋める作業へ移行したというわけです♪



 でもそれも、たった今終わった。

 あとは人目に付かず帰るだけ。簡単なお仕事。

 さぁて、今日は祝勝会にビールの大瓶一人で飲んでやろうかな

 なんて思っていると、



「なぁ、早く電池換えろって」

「暗いからよく分かんないんだよ!」

「あっ、今カチッていった」



 これは、もしかしなくても人の声……

 なんて思う暇もなく


「うわっ! 眩しっ!」

「あっ」


 懐中電灯で顔面を照らしてくる先には、


「えっ!?」

「人!?」

「なんか、シャベル、持ってる?」

「あ、あ〜……」



「おねえさん、誰……?」



 小学生男子3人組がいた。

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入ってはいけない森 辺理可付加 @chitose1129

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