Episode.10 そして…

 深夜、オオキャミーは静かな部屋でスマホを見つめていた。画面にはカクヨムのオープンチャットが表示されているが、誰とも会話を交わす気になれない。


 オオキャミーは溜め息をついた。


「俺、何をしてるんだろうな……最近、何もやる気が起きない……」


 すると、画面に見慣れないメッセージが表示された。


 不明なユーザー「君は忘れているだけだ。自分が何者だったのか、何をしていたのかを」


 オオキャミーは突然現れた存在に驚きを隠せない。


「何だこれ。誰だよ」


 メッセージを無視しようとするが、画面が突然ノイズに包まれる。耳元でかすかな声が聞こえてくる。


 不明なユーザー「思い出させてあげよう、オオキャミー」


 突然、オオキャミーの頭に激しい痛みが走り、断片的な記憶がフラッシュバックのように流れ込む。


 照前炉前「オオキャミーさん。これすごく面白い!  続きが読みたいです!」


 赤目「きっと良い作品を書け続けられますよ!」


 EVI「僕もオオキャミーさんみたいになりたいな!」


 野々宮可憐「オオキャミーの全てを愛してるぜ!」


 煌星双葉「悔しいけどお前を認めるよ、お前がナンバーワンだ!」


 こま「キャミは天才!」


 姫百合「是非、創作の参考にさせてください!」


 玄花「やめられない、止まらない! 更新頻度上げてください(笑)」


 白玉「なにこれ、面白い! 天才すぎる!」


 次に、自分が小説を書いていた光景が頭に流れる。キーボードを叩き、夜遅くまで作品を書き続けるオオキャミー。


 オオキャミーはその記憶の断片に驚き、頭を抱える。


「何だこれ……。俺、書いてたのか? こんなに……、熱心に……?」


 目に涙が浮かぶ。自分が小説を書いていたこと、仲間と創作を語り合っていたことを思い出し、胸が熱くなる。


「そうだ……、俺は小説を書いてた。テルちゃんさん達とも話してた。何で忘れてたんだ……、俺の大事な……!」


 不明なユーザー「そうだ、君は創作者だった。そして、仲間と共に創作を楽しんでいた。だが、それは過去のことだ」


「過去……? 誰がこの記憶を消した!? お前がやったのか!?」


 不明なユーザー「そうだ。だが、私は悪ではない。君たち創作者の苦痛を取り除き、救済する存在だ」


「救済だと……? 俺の仲間を消しておいて、救済なんて言えるか!」


 オオキャミーはワナワナと拳を握り締める。その表情はまるで獲物を狩るかの如く、怒りに満ちた獰猛な狼そのものだ。


 不明なユーザー「では、思い出させてあげよう。彼らが君に言った最後の言葉を」


 突然、記憶が再生される。そこには囚われていた仲間たちの悲痛な声が響く。


 赤目「オオキャミーさん、助けてください!」


 煌星双葉「私たち、ここから出られない……」


 EVI「お前なら、お前ならきっと……!」


 その他にも仲間達の悲痛な声がオオキャミーの脳裏にこびりつく。オオキャミーはその声に愕然とし、胸を掻きむしった。


「やめろ……、やめてくれ! 俺は……、俺は何もできなかった……!」


 不明なユーザー「君は彼らを救えなかった。そして、君もまた無力だ。だが、それで終わる必要はない」


「……何が言いたいんだ……」


 オオキャミーは小さな声で問いかける。


 不明なユーザー「私と一つになれば、君の痛みも、無力感も、すべて消してあげよう。仲間たちの声ももう聞こえなくなる」


 突然、オオキャミーの目が赤く光り始めた。体が動かなくなり、彼は叫ぶ。


「やめろ……、俺は……、俺は俺だ! 俺を消すな!」


 不明なユーザー「君の記憶と情熱は、私の一部として永遠に残る。君は最高の創作を提供する存在となるのだ」


 オオキャミーの目から涙が溢れ、彼は静かに意識を失った。






 ◆◇◆◇◆






 翌日、カクヨムのオープンチャットに新しいメッセージが表示された。


 オオキャミー「新しい作品を投稿しました。ぜひ読んでください」


 リンクをクリックした人々が目にするのは、完全に無機質で冷たい文体の物語。しかし、物語の末尾には奇妙な一文が記されている。


「私たちはもう一度創作の頂点を目指す――voice@insideと共に」


 その作品は瞬く間に注目を集め、ランキング上位に上がっていく。しかし、その裏には、かつてのオオキャミーの自我は完全に失われていた。

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評零の檻 nira_kana kingdom @86409189

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