ゴム姉さん

白川津 中々

◾️

「ぶふぅー。ぶふぅー」



怪異や物怪の類というのは、蓋を開けてみればくだらないものが正体だったりする。



「全身がゴムでね。ぶふぅー。ぶふぅーって鳴くらしいよ。A子ちゃんとB子ちゃんが会っちゃったらしいんだけど、その時、実際に聞いたんだって」



学校で聞いた都市伝説。ゴム姉さんについての話だ。

ゴム姉さんはゴムでできた人間の着ぐるみを着ており、素手でコンクリートを破壊できる怪力を持っていて、一度その姿を見てしまったら死ぬまで追いかけてくるという。


なんだそれくっだらねーなと思って笑いもしなかったわけだが、いざ該当すると思われるモノと遭遇すると、嫌な汗が流れた。


「ぶふぅー。ぶふぅー」


空手道場の帰り道、立ちはだかる人影。女のようだったが、すぐに異様さに気付いた。着膨れとも違う厚さに無機物的な肌質。尋常ではない出立ち。直感で、それがゴム姉さんと呼ばれるモノだと理解した。まさに噂で聞いた通りの不気味さだった。


「ぶふぅー。ぶふぅー」


嫌な音が耳に入る。ゴムから息が漏れる音だ。

ゴム姉さんは元々綺麗な女性だったが全身に火傷を負い発狂。かつての自分の姿に似た着ぐるみを来て彷徨っているという。火傷を負った原因は他者からの妬みだとか親の折檻だとか諸説あるがいずれも信憑性に乏しいものだった。また、「スブドケヤナンオドイロケ」という謎の呪文を唱えると逃げていくそうだが三日後に復讐されるというなんの解決にもならない対処療法がある。何のためにあるんだ。


「ぶふぅー。ぶふぅー」


呪文を唱えるまでまなくゴム姉さんが向かって来た。速くはなかったが、恐怖に駆られた俺は思わず正拳突き。手に届いた感触は人間を殴った時と同じだった。同時に「ぶへぇ」という豚のような鳴き声が聞こえた。完全に男の声だった。悶えるゴム姉さんのマスクをはいでみると、中年のハゲ男が苦しんでいる。



あ、やっべーなこれ。



怪我をさせてしまったかもしれない。そう思った俺は急ぎ救急車と警察を呼んだ。


その後簡単な聴取を受けたわけだが、ゴム姉さんと呼ばれていたモノの正体は被り物を着て女子トイレに入ったりだとか覗き行為を行ったりするただの変態だった。なんでも被害現場で目撃情報が多発しており、近々本格的に調査に乗り出すところだったらしい(対応が遅い)。


「気持ちは分かるけど、殴っちゃ駄目だね」


半笑いでそう諭してくる警察に苛立ちながらも帰宅し、その日は寝た。


翌日、学校へ行くと妖怪ハンターとか女殺しとかいうあだ名が付けられていた。どこから情報が広まったのかは定かではないが、噂というのは、得てしてそういうものなのかもしれない。

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