第6話 殺生門への旅立ち


 一つ目小僧が差し出したのは、一本の刀だった。



 鞘から抜き、刀身を月光に照らす。細い光が刃に反射する。



「これは?」



「『残月光』、あなた様のための刀でございます」



「残月光……」



 刃には、月の光が鮮やかに映り込んでいた。三日月状に刃が青白く光る。



「この刀は月の満ち欠けにより力を変化させます。満月に向かうほど力は高まり、新月には一度力を失います。とはいえ、普通の刀として使う分には問題ございません」



「妙な刀だな」



 刀を鞘に納めた。



「お前は、どうして俺を知っている?」



「母上にお会いすればわかります」



「俺の母親は生きてるのか?」



 会ったことなどない、すでに死んでいると思っていた。今さら生きていると言われても、すぐには信じられなかった。



「えぇ、今のところ」



 一つ目小僧はどこまでも平然としていた。



「母上はあなたを必要としておられます。どうか私とともにおいでください」



「……」



 戸惑いが胸に広がった。



 時分に家族はいないと思っていた。



 自分は家族に捨てられたのだと思っていた。



 それが今「必要としている」と告げられた。



 どんな顔で母と対面すればいいだろう……。



 どうすべきであろうか……。



「案内してくれ」



 会いたいと思った。



 自分の根元にある存在を知りたい。



 自分がここにいる意味を、生きている意味を教えてくれるかもしれない存在に。



 一つ目小僧は満足そうに頷き、一礼した。




***




「ここは、殺生蔵……」



 男は自らの始まりの場所へと戻ってきた。



 蔵の戸を押し開けて進んでいく。



 そこにはかつて出会った老婆はそこにいた。



「まさか、お前とはな……」



「ばあさん、また会ったな」



 老婆はヒヒヒと笑った。



「面白い。次に来るときは死体になってここに来ると思っていたが」



「俺は少しばかり、悪運が強いらしい」



「そうらしいのう」



「ババ様、扉を開けてください!」



 老婆はごそごそと何かを取り出した。



 それは青白く月光を宿すかのように輝く頭部の骨だった。



「ほれ、この頭の骨をその刀で斬れ」



 男は「残月光」を抜き、上から真っ二つに骨を切った。



 切り口から再びまばゆい光が放たれた。



 光が形作るは……

「門か?」



 光が収束し、巨大な門が姿を現した。



 門が開くと、強い風が起こり門の向こうに骨や死体が吸い込まれていく。



「これが伝説に言われていた死体が消える理由……!」



「正確には、ここは『蔵』ではない。別の世界とこの世界をつなぐ『門』、『殺生門』なのだ。蔵はこの大きな力を隠すための姿にすぎぬ」



「お前は門の番人で、ここは『殺生門』だったってことか」



 男は殺生門の前に立った。



 老婆が彼の背中に向かって声をかける。



「小僧、名前は何という」



 捨てたはずの名をここで言うことになるとは思わなかった。意味の分からないあの名前を。



「森羅(しんら)」



「森羅、なるほど、まさにその名にふさわしい」



 老婆はおかしそうに笑った。



「お前の力は確かに凄いが、向こうではさらに凄いものが捨てるほどいるだろうが、それでも行くか?」



「この先には何がある?」



「門の先にはこの世とは異なる理の地が広がっている、お前はそこで死ぬかもしれんがそれでもいいのか?」



 迷いなどない。



 生きるとは、思いもよらないことの連続だ。



 この先に何があるのだろう。



 一度捨てたも同然の命だ、好きに使っていいだろう。



 だが、死ぬつもりはない。



「ちょっと行ってくる」



 そう言って森羅はその裂け目、「殺生門」に飛び込んだ。








*作者より


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


 殺生蔵の話は一応ここまでになります。


 この後も物語を展開していける可能性はあるのですが……、皆様からの反応次第でどうしようか考えたいと思います(初めての試み)


 なにはともあれ、読んでいただいてありがとうございました!(レビューもしていただけるとすごく嬉しいです!)


 他の作品も読んでいただけると嬉しいです!

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殺生蔵〜異界へ至る死の門〜 赤坂英二 @akasakaeiji_dada

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