贋物蒐集家セオドア・マーゴット

【シーザー・クリフ警部補のメモ】

・・・


だぁ!?」

「うん」

「『うん』じゃないんだが!? あれだけ朗々と推理を披露しておいて何も覚えてないだ?」

「店に入って、君にオークションの意図を話したところまでは記憶しているよ?」


 イギリス、某邸宅にて。いつも通り贋物だらけの応接室は、居心地が悪い。茶葉も陶器も逸品なのに、周りに鎮座する彫刻・絵画・あらゆる贋物がシーザーを見詰めている。

 居心地が悪い。

「相手を『モリアーティ』だなんだと持ち上げていたことも覚えてないのかお前は!」

「覚えていないと言ったら覚えていないということだよクリフくん」

「お前、もう二度と酒を飲むな。禁酒だ禁酒」

「酒は人生の潤滑油だ。適度に嗜むものだよ」

「適度を通り越してるから覚えてないんだろ、くそが」

「言葉が悪いねぇ」


 しみじみと紅茶を呑む贋物蒐集家セオドア・マーゴット。そして肩をいからせるシーザー・クリフ警部補。

「でも君の言っていることが本当なのならば、クリフ。これからは僕の元に頻繁に『闇のオークショニア』からの招待状が届くかもしれないということだろう」

「は?」

「金払いの良い顧客名簿に僕の名前が載ったということだよ。僕と彼の間には因縁ができた。ならば、それを活用するまでのことだ。彼を追いたいのなら、君は、僕についてくればいいよ、

「やめろ」

 身震いするシーザーに対して、セオドア・マーゴットは軽くウインクしてみせた。


・・・


 そういうセオドアの文机デスクには、新たな招待状が載っている。

 黒封筒に金文字の――例の招待状が。


親愛なるDearセオドア・マーゴット

――闇のオークショニアauctioneer of darknessより』。



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贋物蒐集家セオドア・マーゴットの事件簿 紫陽_凛 @syw_rin

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