第56話 コレットの家

 フレアとコレットが城塞都市リーベルに到着し、門兵にギルド証を見せる。


「新人二人でよくここまでこれたな。入っていいぞ」

 そう言われて城壁内に入る。


 門兵の詰所に巡回にきていた男が二人をみて、

「あの嬢ちゃんは…」

 と呟く。


「どうかしましたか?テッド隊長」

 と門兵に問われるも、

「いや。なんでもねぇ」

 とはぐらかした。


(あの嬢ちゃんは確か教会で生き返った子だよな)

 テッドは直接その現場を見たわけではなかったが、ネリーからその話を聞いた。

 コレットがリーベルを出るときに直接見送ったわけではない。

 だが、コレットが乗った馬車が城壁を出るまで遠くから見守った。


(元気そうになってなによりだ。はー、俺も仕事に戻るか)



 コレットはフレアを連れて街の中心部を抜けていく。

「フレアちゃん、ちょっと寄り道していい」

「?うんいいよ」

 そして二人はある建物の前に着いた。


「ここは?」

「私の住んでた家なのぅ」


「ええ?!」

 コレットの生家だというこの家は、こぢんまりしていて造りも古いが、しっかりした立派な家だった。

 コルテ村でコレットが住んでいた家とは全然違ったので、フレアがびっくりしている。


「でも変ねぇ」

 コレットがリーベルから出て行ってから2年以上経っているはずだが、妙に小綺麗だ。

 壁にはツタも生えていないし、小さな庭にも蜘蛛の巣一つ見当たらない。

 家のドアをあけると、鍵はかかっておらず、すんなり入れた。


 台所まで進むと、

「人の気配がする。掃除中かな?」

 フレアがそういうので、

(他の人が住んでるのかしらぁ)

 とちょっと心配になったコレットだったが、

「こんにちわ~」

 とフレアは掃除中のその人に声をかけていた。


 その人は掃除の手を止めこちらに向き直る。

 その人は黒髪のボブカットでメイド服をきた・・・メイドさんだった。


「え?なんでメイド服?この星にそんな服?なんで…」

 とフレアが混乱していると、

「この人の服メイド服っていうの?かわいいわぁ~フレアちゃん詳しいのねぇ」

 とコレットが感想を述べる。

 フレアはメイド服は実際に見たことはなかったが、旗艦にいたときにデータベース上で閲覧したことがある。

 強烈な個性を放つその服に魅入られ、一時、いろんな種類のメイド服を閲覧していたものだ。もちろん着る機会はなかったが。


「こんにちわ。私はここで伯爵様の許しを得てこの家の管理を任されている者です」

 メイドさんはそう答えた。


「あれ?でもメイドさん…」

 フレアは何か違和感を覚える。

 なにか見たことがあるような、懐かしいような…

 そんなことを考えてみるが、横でコレットが「この服フレアちゃんにも着てほしいわぁ。どこで買えるのかしらぁ。おいくらかしらぁ」などと言っているのでそっちが気になってしまった。


「持ち主が戻ってきたようなので、私はこれで」

 と言って家の鍵をコレットに渡してそのまま出て行ってしまった。

 コレットはメイドさんが出ていくときも「それメイド服?っていうのぅ?ぜひほしいわぁ。どこで売ってるのぅ?フレアちゃんに着せ…」と話しかけていたが、「売っていないと思いますよ」と被せ気味に言われてショックで四つん這いのまま動かなくなっていた。


 メイドさんが去ったあと、室内を見回してみると、本当に綺麗にしてあり、チリひとつ落ちてない。

 家自体は古いのだが、それでも綺麗な室内を見ると、本当にきちんと管理されていたことがわかる。


「あのメイドさんにちゃんとお礼いわなくちゃ」

 冷静になったコレットが呟く。

 家族と住んでいた家を守ってくれていたことに、感謝する。

「私ったらあの服がかわいすぎて我を忘れちゃったわぁ。きっちりお礼も言えないなんてぇ」

 とションボリするコレットに、

「次に出会ったらお礼言えばいいじゃない」

 とフレアが励ます。

「それもそうねぇ。この街にいれば出会うこともあるわよねぇ」

 と言いながらも、「次に会ったらお礼を言って、ついでにメイド服の入手方法を・・・うふふぅ」と何やらダメな顔をしている。


 フレアは、

(服はともかく、なんか不思議な人だったな)

 と思っていると、

「あれ待って。さっき伯爵様の許しを得て、って言ってたよねぇ?じゃあ伯爵さまにもお礼をいわないといけないかしらぁ」

 とコレットがいう。


 二人で考えた結果、一応お礼を言いに行って、会えなかったら仕方ない、という結論に至った。


 二人はさっそく、伯爵の館まで来ていた。

 いきなりなので、会ってくれるかわからないし、そもそも身分が違うので相手にされないかも知れない。


 それでも一応、家を管理してくれていたお礼はしておかないと、コレットの気がすまなかった。


 それに…。


 伯爵の館の前で、館の警備の人に事情を説明する。

 すると、伯爵は留守らしかったが、執事には取りついでくれるらしかった。


 しばらく館の前で待っていると、執事らしき老練な雰囲気の男性が出て来て、

「あなたがあの家の持ち主でしたか。実はヒルデお嬢様とアルテお嬢様が、あの家を処分しないようにと仰いましてな。それで、売買などされないように当家で管理していたのですよ」

 と説明してくれた。


 それを聞いたコレットは、

(そういうことかぁ…。ありがとうヒルデお嬢様にアルテお嬢様)

 と納得した。


 ヒルデとアルテとは、コレットが家族を失い教会に預けられたときに出会った。

 二人のお嬢様は、孤児の様子を見に頻繁に教会に来ていた。

 孤児達は皆心に傷を持ったものも多く、ケアが必要な子どもも多い。

 そんな中で、二人のお嬢様は教会に足しげく通い、子ども達の心を開いていった。


 コレットもその一人で、アルテと年が近いせいか、二人とも本当に良くしてくれた。

 しかし、当時のコレットはまだ家族を失ったことから立ち直っておらず、ついに笑顔も見せないままコレットは引っ越してしまった。

 コルテ村に引っ越してからも、何度かコレットの様子を見に来てくれた。


(今考えれば、二人とも貴族のご令嬢なのに、私のためにわざわざ様子を見に来てくれていたなんてすごいことよねぇ。あの時は言えなかったけど、会えたらたくさんお礼を言わなくちゃ!)


「あのぅ…出来ればお嬢様方に会わせて頂けませんかぁ?今回の事だけじゃなく、今までの事もたくさんお礼を言いたいのですぅ」

 と執事にお願いするが、

「お嬢様方はお二人ともリーベルにはおられません。しばらく戻らないと聞いております。あなたが来たことは伝えておきますとも」

 と言われて、コレットは肩を落とす。

(会って直接お礼…言いたかったなぁ)


 しょんぼりコレットを励ますように、フレアは

「じゃあ、コレットがよければしばらくここに滞在しよっか?ここにいれば会えるかもしれないし」

 と提案する。


 コレットは、確かにリーベルにいる間は自分の家があるので宿代もかからないし、それがいいと思った。

 いつまで滞在するかは、二人でゆる〜く決めよう。

 一応、二人の目的は戦争に関する情報収集だが、なまじ小さな町を転々とするよりも、大きなリーベルに居た方が、各地の情報も手に入りやすそうだった。


 そうと決めたコレットは、執事に

「わかりましたぁ。それでは掃除してくれていたメイドさんにもありがとうとお伝えください」と言うと、執事は

「その方は当家の者ではないので、お伝えする手段がありません。我が当主の知人の知り合いとのことで、私も詳しくはわかりません」


(知人の知り合いってもう他人じゃないかしらぁ)

 と思いながらも、

「わかりましたぁ。ありがとうございましたぁ」

 と言って館をあとにした。






 

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