僕の色眼鏡

 もう秋にもなりかけた、ほぼ夏の日。僕はついに腹をくくった。

 別れよう、それが僕の出した結論だった。どうやら君は僕じゃなくてもいいらしい。なら、僕じゃないもっと別のだれかと結びついてほしい。

 そう思っても、やっぱり気乗りはしなくて。集合場所についた時には約束時間を少し、過ぎていた。


 君は出会った時と同じようにベンチに座っていて、いつものようにぼうっとしていた。

 なぜだかそれが無性に悲しくて、だけどそんな思いを悟らせるわけにもいかなくて、無理やり笑ってごまかした。

「来てくれてありがとう」

「うん。大事な話なんでしょう?」

「……うん。まぁ、でも、ここ、久しぶりだね」


 それとなく話を切り出してみる。

 あんなことをした、こんなこともした。君が僕と距離を置き始めてからも二人っきりになることは多かったはずなのに、その思い出一つ一つが輝いてる。

 楽しかったね、面白かったね。話せば話すほど今日の本題を忘れそうで。

 楽しそうに話す君の顔を見ているとなんだか自分が虚しくなった。


 また行きたいね。


 その言葉が決定的だった。それが君の本心であることを願う。前と違って今なら、うん。って心を込めて言いたいと、本気で思った。


「あのさ……、別れよう。って言おうと思ってたんだ」

「……うん」


 あぁ、そんな悲しそうな顔をしないでよ。

 

「でも今、それがすごく嫌だって思っている僕がいるんだ」

「え……」

 

 いつしか僕の心は定まっていたんだ。

 この想いがぶれて前の様に戻りたくなかった。出会ったときみたいによく笑う君の話を聞きたかった。

 どこまでも自分勝手だけれど、それが押しつけでも届いてほしいと、そう願う。


 

 「好きです。君の事が、どんな君でも」



 どうか、届けこの想い。自分の心を身勝手な殻で包まずに。

 いつしか僕の視界はぼやけていた。あぁ、駄目だよ。こんな情けない姿でいるなんて。

 けれどそんな恥ずかしい気持ちも、君の声を聞くために心の中に無理やり押し込んだ。


 「……ありがとう。私も」


 そう言って笑う笑う君は輝いていて、その笑みは僕をくすぐって。

 あぁ、僕は君の事がどこまでも愛おしくてたまらないらしい。

 この空に誓おう。僕は彼女を愛してるんだ、だからもう僕の心を自分勝手な色眼鏡で見ない。

 だから、君は僕をどうか見ていてほしい。

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私とあなたを隔てるものを 三門兵装 @WGS所属 @sanmon-3

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