私の殻

 それは秋、といってもまだ燦燦と太陽が照り付けるような10月頭。

 私はあなたに呼び出された。場所はあなたと出会った公園のベンチ。あの時はもっと暑かったね。

 私はあの鎧をまだ脱いでいない。私はまだその状態が心地よかった。

 あなたは来た。黒い半そでのTシャツに少し皺のよったジーパン。そのジーパン、アウトレットで安くなってたんだ、なんて言って笑ってたね。

 何でだろう、私の心を彼から遠ざけてからのほうが、想いをさらけ出していた時よりもあなたの事を知りたいと思う気持ちは強くなって。

 その笑みが薄っぺらと知っていても、その上で惹かれてしまう私がいた。


 あなたは私の隣に座るとへらりと笑って話し出した。

「来てくれてありがとう」

「うん。大事な話なんでしょう?」

「……うん。まぁ、でも、ここ、久しぶりだね」


 あんなことをした、こんなこともした。一夜を共にしたことはなくとも、いろんなところに遊びに行った。

 楽しかったね、面白かったね。その全ては私の中に残ってる。

 けれど、初めて二人っきりでどこかに言ったあの日ほど輝いている思い出は見つからなかった。

 心を曇らせて、自分を守って。そんなことをしていなかったあの時のほうが思い出に残っているのはなんでなんだろう。


 また行きたいね。あの時も確かそう言ったっけ。

 

 それが本心から出た言葉なのか、空気に合わせて言ったことなのかは分からない。

 でも、唐突にあなたの動きは止まった。急に降りた沈黙をあなたは慎重に断ち切るようにして、言葉を紡ぐ。


「あのさ、」


 もう一度、沈黙。


「別れよう。って言おうと思ってたんだ」

「……うん」


 そう、だよね。私も心の底では思ってた。でもまさかそんなことないって自分に言い聞かせたくて。

 不思議だ。私が自分をあなたから遠ざけたくせに、いざ言われると心が抉られるように苦しかった。


「でも」


 あなたの言葉は、仕草はいつも私の心に残るものばかり。

 なんて。今思うとどれだけ私があなたの優しさに救われたんだろうね。

 

「今、それがすごく嫌だって思っている僕がいるんだ」

「え……」


 

「好きです。君の事が、どんな君でも」


 

 鎧が砕ける音がした。あなたの少しでも近くにいたかった。思えば直視することすらも減っていた君の顔は、今、泣いていた。

 どうして気づかなかったんだろう、どうしてわからなかったんだろう。知っていただろう、彼はものすごく優しい人なんだと。



 鎧が砕け、靄が晴れたその空はどこまでも青く、透き通っていた。今まで鎧の中に籠りきっていたくせして、まっすぐに青いその空が私の背中を押してくれるかのように、鎧の中に閉じ込めてた想いはすんなりと出てきて。


「……ありがとう。私も」


 どこまでも、私はあなたが好きらしい。その想いは、もう滲ませない。

 この空に誓おう。私は自分に素直になってみせる。

 だから神様、どうか見ていて。私と彼の二人の影を。

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