過去に恋したって、恋い慕って

目が覚めれば、そこはあの教室。


辺りを見回す。横を注視。横にはもう、あの丹生さんはいない。


紹介ビデオ、取りに行かなきゃ。時計に目をやる。もう時間すぎてるや。焦る。


今、何の夢見てたっけ。立ち上げってから少し考える素振り。


「今の、なんだ」


そう呟いて、無意識のように教卓からカッターを探し出す。


ゆっくり刃を出すところを見つめて、包帯の巻かれた左腕にあてがう。


そして、引く。でも、実はそこには紙が貼ってあって、紙を切っているだけ。


そして後ろの扉が開いて、でも振り向かない。


「綺麗な赤色だね」












「カットー!!!!」


イオリセンパイの大声が響く。はぁ、超大作だった。駄菓子屋とか、夏祭りとか、海とか、公園とか。しかもファンタジーものだから、感情の表現が難しかった。


最初の方は、自分も演劇部なので役に入り込めたけれど、最後はもう難しくてたまらなかった。


気持ち悪いから好きに変わる瞬間とか、台本をちゃんと読んでもなかなか分からないものだ。


丹生未来役、私の親友のルナとハイタッチをする。


「いやぁ、最後のイントネーション最高だったわ」


そう言ってやると、役とは全く違う肉食な笑顔を見せた。


「瑞希センパイ、どうですか?」


瑞希センパイ役、イオリセンパイにそう問いかけると、ゆっくりとカメラを置いて、ニヤリと笑い返した。


「過去に恋したって、別に過去に戻りたい訳じゃなくて、過去に会いたいんだから。好きな人に会えた時の挙動とか、緊張とか、全く感じられなかった」




丹生未来のセリフだった。

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死なないでよシネマ 夏目 四年生 @zoio905

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