第18話:恋獄剣・レイティブアーク
「此処が我の巣だ。幾らでも持って帰って良いぞ」
ヨルムに案内されたのは山に掘られた穴蔵だった。
元々の身体が巨大なため、穴はとても大きく、結構深い。
その中でもヨルムが拾ってきた? ものを保管している部屋は、中々に絶景だった。
多少ごちゃっとしているが、財宝と呼べるようなものが積まれており、おそらく下手な国の国家予算以上ありそうだ。
まあこの世界の国の国家予算なんて知らないので、適当だが。
(どれを貰えば良い?)
『う-ん。とりあえず良さそうなのを視界に映すから、適当にアイテムボックスに入れといて』
正直これ程大量にあるとは思わなかったので、少し圧倒させられてしまっている。
持って帰ろうとすれば全て持って帰れるかもしれないが、この景色を壊すのは憚られる。
アクマが指示した物だけをポイポイとしまい込み、ちょこっとだけ金になる物を拝借した。
「ありがとうございました。これだけ貰えれば結構です」
「そうなのか? どうせ母様や父様が適当に集めたものだ。もっと貰っても良いのだぞ?」
親の物を勝手に上げて良いのだろうか?
「……勝手に上げても良いのですか?」
「うむ。好きにして良いと母様が言っていたからな。どうせ集めた所で眺める以外に出来ることも無い」
「そうですか……それならありがたく。さて、これからの事について話しましょう」
後は空いた時間でエルメスに武器を作ってもらうとして、ヨルムにはちゃんと話しておかなければならない事が多い。
俺が魔法少女に変身できることは絶対に話さない事や、絶対に殺しをしてはいけない事。
それとメイドをやっている事や、一緒に居るのは良いが、構えない時間もあるので、我がままを言わない事。
見た目はあれだが、流石ドラゴンなだけあって頭は良く、しっかりと理解してくれた。
ついでにヨルムについてだが、森で拾った事にする。
どうせどんな理由だとしても、誰も信じないだろうし、信じられなくても困らない。
またヨルムは全ての属性が使え、人の姿に変身した様な、特殊な魔法も使える。
…………さて説明も終わったし、気が重いが帰るとするか。
「それではどこかに触れて下さい。転移しますので」
「分かったのだ」
ヨルムは何故か、俺の背にしがみついてきた。
アクマが笑っている雰囲気を感じたが、直ぐに転移が始まった。
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屋敷に帰って来たのは既に夜も更けた時間だった。
何故か背中から降りないヨルムにイラッとするものの、とりあえず変身を解いた。
正直重いが、まあこれも鍛錬の一種だと思い込むことにして、アクマにメイド長が居る場所までナビしてもう。
メイド長が居たのは、裏庭の訓練場だった。
早速ヨルムを背負ったままを話したら、メイド長は固まったまま目を閉じた。
「すみません。もう一度お願いします」
「森で子供を拾ったのですが、色々とあって私が育てることになりました。面倒は見ますので、飼っても大丈夫でしょうか?」
おや? なんだか少し考えていた文章と違う事を言ってしまった気がするが、まあ大体あっているだろう。
しがみ付いているヨルムも、何も言わないし。
「――まあハルナが面倒を見るなら、大丈夫でしょう。当主様も文句を言う事は無いでしょうし」
「ついでに此方を換金して、養育費にして下さい」
ヨルムの所で拝借した中で、アクマがそれなりの値段になると言っていた宝石をメイド長に渡す。
「これは……まさか、コランオブライトですか⁉」
「さあ。私には何とも」
アクマが選んだだけだし、ヨルムに見せても綺麗だなーとしか言わなかった。
ダイヤモンドやルビーなどの宝石が高価なのは常識として知っているが、この世界の物は全く分からない。
宝石も石ころも、綺麗かそうじゃないか位の差しかない。
そんな内心の俺とは違い、メイド長は手をプルプルと震わせながら、俺が渡した宝石を大事そうに見つめている。
「遥か昔、建国の時に神から王に下賜されたと言われている、伝説の宝石です。極稀にダンジョン等から見つかる事はありますが、この大きさともなれば、献上すれば即子爵程度にはなれるでしょう」
なるほどなるほど。
(アクマさん?)
『……これが常識の差による、弊害って奴だね!』
アクマも情報を引っ張り出してきているだけとは言え、もう少し疑ってくれないものか……。
すごい価値があると言われても、正直どうでもいい。
しがみついているヨルムを見ると、何故か首を傾げられたので、一緒に傾げてみた。
よし、シラを切ろう。
「私はこの子から渡されただけなので何とも。自己紹介しなさい」
「我の名はヨルムだ。よろしく頼む」
「いや……え、うん? えっ?」
メイド長は更に混乱して、宝石を持つ手を右往左往させる。
ヨルムの口調については少し気になるが、このままで良いだろう。
一応魔物だし、先の事を考えれば人の世に馴れすぎるのも考えものだ。
「その宝石についてはメイド長が管理してください。私達では分からないので」
「よろしく頼むぞ。メイド長」
「――本当によろしいのですか? 私が悪人でしたら、このコランオブライトを盗んで逃げますよ?」
聞いた限り、売れば生きるのに困らない程度の金になるみたいだから、メイド長の言うことももっともだ。
だがメイド長の素性を知っている俺からすれば、そんな心配はない。
「メイド長はそんな事をしないでしょう? わざわざ私に仕事を教えてくれる程お人好しなのですから」
まあアクマの情報が間違っていて、メイド長が実はクーデターを企ていました……なんてなったら笑えないが、最悪の場合は実力行使すればどうとでもなる。
「あなたって子は……分かりました。コランオブライト私が責任を持って換金しましょう。それと、ヨルムはどうするのですか?」
「とりあえず行儀見習い……メイド見習いとして働いて貰おうかと。お金がどうにかなるとは言え、仕事はさせた方が良いでしょうから」
「うむ。我もちゃんと働くぞ!」
「そう……ですか」
何とも煮え切らないって感じだが、一緒に住む許可は貰えたし、大丈夫だろう。
さて、このまま今日は休んでも言いが、杖を作ってしまおう。
「ヨルム。私は少し用事がありますので、後の事はメイド長に聞いてください」
「分かった」
「……こんな夜更けに用事ですか?」
「はい。それでは失礼します」
引っ付いていたヨルムをメイド長に引き渡し、屋敷に戻って人気のないところで転移した。
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「それでは始めるです」
リディスの魔法の練習や、風呂を作っては入っている山に転移し、今回集めてきた素材を出すと、エルメスが出て来た。
作るのはリディス用の杖と剣と、俺用の剣だ。
杖の大きさは俺が使っている様な大きなものではなく、片手で振れる程度の小さなものにする予定だ。
剣の方に杖と同じく魔法の補助となる機能を持たせるのも有りかと思ったが、エルメスがストップを掛けた。
どうやらしっかりと機能を分けた方が、使い勝手が良いだろうとの事だ。
とは言っても、何も付与しなくてもそれなりに補助はしてくれるみたいだ。
因みに作り方は魔法陣の上に素材を乗せて、エルメスが能力を使えば出来上がるそうだ。
先ずは杖用の素材をエルメスの用意した魔法陣の上に載せ、エルメスが能力を使う。
すると電流の様なものが走り、光が止むと杖が完成していた。
大きさとしては二の腕から指の先程度で、中々良い意匠となっている。
少々禍々しい感じがするが、RISドラゴンの素材を使っているせいだろう。
「良さそうですね」
「後は使用者の血を垂らせば、いつでも呼び出せるようになるです」
続いて剣の方だが、いざ作ろうとした所で、エルメスとアクマから待ったが掛かった。
作るのは、本当に剣で良いのだろうか?
そんな性もないことである。
アクマは大鎌を推し、エルメスは槍を推してきた。
無駄に俺の中から出てきて取っ組み合いの喧嘩を始めたので、一応仲裁する。
「杖と併用して使うんですから、剣以外選択肢は無いですよ」
そんな訳でちゃっちゃかと剣も作ってしまった。
鞘もセットであるが、此方は杖と違って高級感溢れる仕上がりだ。
白と銀を基調とした刀身に、良い感じに赤が差している。
長さは使用者に合わせて調整できるので、割合しておく。
「これってこの世界ではどれ位の性能になるんですかね?」
「さあ。興味ないので分からないです。それよりも、次は史郎の剣ですよ」
「使っている素材はこの世界でも上位の物だし、強いのは確かだろうね」
俺の剣と言っても、ただの飾りみたいなものなので、リディス程高性能の物でなくても良い。
縛りプレイとして剣だけで戦う事をしても良いだろうが…………とりあえず作ってしまう。
素材をまた魔法陣の上に運んでいると、アクマが髪の毛を。エルメスが羽を魔法陣の上に載せた。
……まあいっか。
「それじゃあお願いします」
「任せるです」
電流が走るように光り輝き、出来上がったのは俺が望んでいた物ではない、大振りの剣。
大剣が鎮座していた。
剣の幅は俺の胴体より大きく、長さはギリギリ背負えるかどうかだろう。
当たり前だが鞘なんてなく、むき身の状態だ。
俺が望んでいたのは、第二形態で使っているようなシンプルなロングソードだ。
まあ色合いは黒い刀身に赤い線がはいっていて不気味だが、これまで何度もお世話になって来たので、同じくらいの長さが良かった。
「――二人共?」
「立派な剣ですね。史郎にはピッタリです」
「これならどんな攻撃も防げそうだね。ハルナにピッタリだ」
アクマもエルメスも俺から顔を逸らし、剣を見て頷いている。
やはり長く生き過ぎているせいか、頭の老いが進んでいるのだろう。
『まあ、二人共悪気があった訳じゃないし、小さな体に大きな剣ってのも、良い物じゃない?』
(ロマンとしてはありだが、実用性としては皆無だ。確かにお遊びの部分もあるが……とにかく能力を確かめてからだな)
見た目はあれだが、もしかしたら性能は良いかもしれない。
大きさを変えられるとかあれば、まだ救いがある。
大剣に血を垂らすと淡く光り、頭の中に能力の詳細が映し出される。
「まあ、次第点といった所ですか。使えない事もなさそうです」
銘は恋獄剣・レイティブアーク。
重さを自在に変えられ、なんと半分に分割する事が出来る。
見た目は数十キロありそうだが、能力を使えば鉛筆と同程度になる。
重さを変えられるので、素振りをするのにも向いている。
持ち運ぶとなれば少々邪魔になりそうだが、鎖で身体に括り付ければ問題なさそうだ。
まあ基本は異空間に収納できるので、背負う事は多分ないだろう。
後は勝手な事をした、この二人だ。
「一応許しますが、あまり勝手な事をしないで下さいよ」
「……ごめん」
「すまなかったのです」
多少のお遊びは良いが、武器の良し悪しは命に直結している。
やって良い事と悪い事は、しっかりと分けておかなければならない。
「やる事もやりましたし、風呂に入ってから帰って寝ましょう」
大剣をしまってからいつもの様に風呂に入り、さっぱりしてから屋敷に転移する。
部屋に戻ると、ベッドではメイド長とヨルムが寝ていた。
ベッドの端っこの方に潜り込み、さっさと寝るとしよう。
次の更新予定
アクマで魔法少女ですので ココア @yutorato
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